【第349回】 宇宙の真象に学ぶ

前回の「妙技をつくるために」では、合気道で妙技をつくるためには、幾つかの重要なことを学ばなければならないが、その内のひとつに、「大宇宙の真象」に学ばなければならないと書いた。

これは重要なことであると思うが、わかるようでいて、具体的に理解するのがなかなか難しい。それを、今回はもう少し深く、そして具体的に考えてみよう。

開祖は「武を修する者は、万有万神の真象を武に還元さすことが必要である」(「武産合気」)と、宇宙の真象に学ぶことの重要性を説かれている。そして、真象の例として「たとえば、谷川の渓流を見て、千変万化の体の変化を悟る」を挙げられている。尚、真象とは、実際の姿、真実の姿ということであろう。

開祖は数々の武術を師について学ばれたが、合気道、武産合気を修行し、創造するにあたっては、学ぶべく人間の師はおらず、宇宙こそが師であり友であったといわれている。つまり、真の師、最終的な師は宇宙である、ということになるだろう。あるところまでは先生や先輩や先人に導かれて学んでいくが、最終的には、宇宙から学ばなければならないようだ。

開祖は、ここでは谷川の渓流を見て悟られ、開祖の直弟子であり達人といわれた、自身の派の合気道をつくられたある方は、金魚の動きを見て体捌きを会得されたといわれている。ここでは、私自身の宇宙、大自然から最近学んだことの一つを書いてみる。

ある朝、屋上から天を見ていたら、青空に雲が浮かんでいた。雲を見ていて、「雲は水蒸気が天に昇って横たわっているもので、これが雨となって地上に降る。そして降った雨は地上に広がり、また、その水になった雨は水蒸気になって天に昇っていく。」と想像した。そして、これは縦と横の十字であると思ったのである。これで、宇宙の生成および営みは十字である、ということが自覚できたわけである。

つまり、水蒸気は縦に天に昇り、それが雲となって横たわる。横たわった雲から雨となって縦に地上に降り、その雨は地上で横に広がり、また、水蒸気として縦に昇るという十字の営みをしているのである。

また、宇宙(大自然)には法則があることも分かる。太刀魚のように縦になって浮いている雲はないし、横に降る雨もない。

「宇宙の真象に学ぶ」は、なにも合気道だけの専売特許ではない。絵画や彫刻の傑作を見ても、宇宙の真象に学んでいるとしか思えないものがある。例えば、想像上の龍などはそうであるといえよう。池大雅の描いた龍、曾我蕭白(そが しょうはく)の雲竜図、左甚五郎の昇り竜、降り竜などは、宇宙の力、恐ろしさ等などの宇宙の真象を熟知した作品であると思う。おそらく、宇宙の真象に近ければ近いものほど、人に感銘を与えるよい作品ということになるのだろう。

合気道においても、妙技であるかどうかは、宇宙の真象に学び、どれだけその宇宙の真象を会得したかによるのではないだろうか。小さな人間の勝ち負けなどにかかわらずに、ますます宇宙の真象に学んでいかなければならないだろう。