【第344回】 後進への伝え方
人間だけではなく、生き物のすべては、先祖や親が培ってきたものを引き継いでおり、そして、それを孫子や後進へと受け継いでいく。意識して受け継いでいるものもあるし、遺伝子などで無意識のうちに受け継いでいるものもある。
人類6,7万年の歴史の中には、ぜひ引き継いで欲しかったのに、残念ながら今日まで引き継がれなかったものも相当あるだろう。例えば、縄文人のいろいろな文化や、役の行者の飛行法、甲賀流・伊賀流忍者の鍛練法、消え去った武術等など、受け継がれていれば面白いだろうと思う。
先人がつくったものが受け継がれずに、途絶えてしまったものは、数限りなくあるだろう。途絶えるには、さまざまな理由があったはずである。政治的、社会的に抹殺されたものもあるだろうし、また、よいものを後進に伝承しようとしても、その甲斐なく受け継がれずに途絶えてしまった場合も多くあるのではないだろうか。
何かを後進に伝えていくのは容易ではない。その理由は、
- まず、自分自身がそれをしっかりと受け継がなければならない
- 受け継いだものを自分のものに消化しなければならない
- それに自分の味付けをしなければならない
- 後進に伝えるという信念をもたなければならない
- 適当な後進がいなければならない
- また、その伝え方が難しい
後進への伝え方は、実に難しいものである。なぜなら、誰にでも伝えればよいというものではなく、本当にそれを求めている人、自得しようとしている後進でなければならないからである。自分や自分のやり方に満足していたり、他のやり方に関心がないような人には、何をいっても意味がない。
後進にものを伝え、残していくのは難しいが、高齢者である先輩が後進に伝え、残せるものがある。それは、高齢者が稽古で精一杯がんばっている姿を見せることである。もうひとつは、悪いことを注意することである。例えば、道場で足を投げ出したり、汗ふきタオルを銭湯帰りのように肩にかけていたりする場合である。
このようなことを後進に注意するのは、面倒なものであるが、悪いことは始めのうちに止めさせないと、どんどん拡大して、遂にはそれが当然なことになってしまう恐れがある。早いうちに、先輩が一言注意すべきであろう。それもまた、伝えていくべき大事なもののひとつである。
よいことは十分の一しか継承されないが、悪いことは10倍の速度で伝わっていくものだ。
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