【第343回】 体の表を鍛える

合気道は、相対での形稽古で技をかけあって稽古するが、技は思うようにかからないものである。技がうまく効くためには、無数の条件があり、やるべきことがある。

そのひとつのやるべき条件として、技は体の表でかけなければならないというがある。

体の表とは、体の背中や腰の面である。反対の胸や腹の面は、裏という。体の表からは、大きい力やエネルギーが出る。体の裏は、大事な内臓を補完し保護するところである。

技を使う際は、体の表をつかわなければならない。実際、体の表ではなく、体の裏で技をやるから、技が効きにくいのである。その典型的な技は、二教裏の小手回しであり、後両手取りなどである。

体の表をつかうのは、難しくない。なぜなら、人の体は本来、表で仕事をするように造られていて、そうするのが自然であるからである。体の表を意識して、表をつかうようにするのがよい。

しかし、意識してやっても、表を使うのは難しいと感じる人もいるかも知れない。理由は、姿勢にある。歩いたり立ったりしたとき、背中が曲がったり、体の力が胸や腹や膝や爪先など、いわゆる体の裏側に懸かっているからである。この姿勢で技をつかうと、力は体の裏から出るので、大した力が出てこないことになる。

まず、このような姿勢を正さなければならない。力が、背中や腰などに集まるようにするのである。

概して西欧人は立ったり歩いたりしても、背骨がまっすぐで、姿勢がよいようである。それは、背中に力が集まるようになっているからで、それが自然だからである。西洋人は力が強いといわれる理由のひとつは、この体の表から力を出すからと考える。

戦前の日本人は、背骨がまっすぐで、姿勢がよく、背中に力が集まる体だったように思える。(写真)

昔の人たちは、このような体と体つかいがあったことで、超人的な大きな力が出せたのではないかと考える。時代が変わり、生活様式が変わると、人も人の体も大きく変化するようだ。

体の表である背中や腰を鍛えるためには、技の稽古で意識してやることである。さらに、道場の外でも鍛えなければならないだろう。力が体の表に集まり、それを使えるように、道場でも道場の外でも稽古して、習慣化し、体に覚えさせるのである。異次元である道場の稽古だけで使うのではなく、日常でも使えるようにするのである。

一番よい鍛え方は、歩くことである。ふだんから背中に体重を感じるように、歩くのである。そのためには、踵から歩を進めるようにしなければならない。息と歩行が合っていれば、着地したとき足への圧力が背中に伝わると共に、足で呼吸しているように感じ、また、その呼吸も背中で感じるだろう。呼吸を背中で感じることによって、背中側である体の表が陽となり、力がみなぎってくるはずである。

道着の入ったバッグやパソコンや書類カバンを持つ場合には、手で提げて腰で持つようにすると、体の表側である腰が鍛えられる。バッグやカバンを、腰で持つのである。これを習慣づければ、手に持ったものはすべて体の表で持つようになるだろう。

この感覚をもっとはっきり味わいたいなら、カバンなどを手に持って、息を腹に入れ(吸う)てから吐くと、手の荷物の重みが腰に集まるのが、はっきり感じられるはずである。

道着を持つのも、稽古になる。肩に提げるのは楽かもしれないが、稽古にはならないし、肩を痛めることにもなりかねない。

技は体の表の力でかけないと効果が小さいが、家庭で指圧をする場合なども、体の裏からの力では効き目が少ないようである。体の表、つまり背中や腰からの力の方が、気持ちがよいようだし、効果も大きいようだ。

体の表を意識し、表をつかって鍛練していくべきだろう。