【第341回】 くっつけて離さない手

合気道では相対で技をかけ合いながら精進していくが、技は思うようにはかからないものである。5年、10年ぐらいまでは、技はかかっているものだと思いがちであるが、実際には、本人の思っているようには技になっていないはずだ。

5年、10年ぐらい稽古を続けていれば、技の形はある程度なぞることはできるようになるだろう。力もついてくるので、相手ががんばらないで、素直に受けを取ってくれれば、投げたり抑えることはできる。

ここで、自分は合気道の技ができると思ってしまうだろうが、まだまだ残念ながら、技にはなっていないだろう。例えば、手足が陰陽に規則的に動いていない、手が十字につかわれていない、手と腰腹が結んでいない、手先から動かしてしまう、息の使い方が動きに合っていない等など、技をつかっていないのである。

特に、初心者に多い欠点の一つは、「手を振り回してしまう」ことであると思う。せっかく相手が持ってくれている手を、自分の手を振り回すために、相手の手が離れてしまう。すると、本来の合気道の稽古を続けることができなくなってしまうのである。だが、初心者の多くはそれを、自分は強いからだとか、うまいからだなどと、勘違いして思いがちである。

手を振り回すとはどういうことかと言うと、手先と腰腹が結んでない上に、末端の手から動かしてしまうことである、ということができるだろう。従って、手を振り回さないためには、手先と腰腹を結び、体の中心の腰腹を動かして手をつかわなければならない。

手を振り回さなくなれば、手は相手にくっつき、動いても離れなくなるはずである。もし、相手が持っている手や、相手と接している手が離れたとすれば、それは手を振り回してしまったことになる。

一度相手とくっついたならば、技の最後まで離れないようにしなければならない。もし相手の手が離れれば、相手は攻撃を再開することができる訳だから、武道的には負けになるだろう。

くっつけて離さない手をつくるためには、日頃の稽古でよく意識して、稽古しなければならない。相手を投げようとか、何とかしてやろうなどという気持ちで稽古をすると、「くっつけて離さない手をつくる」ことは忘却の彼方にいってしまい、本来の目的は消えてしまう。日頃の稽古で取得するのは、実は容易でないのである。

それなら、「くっつけて離さない手をつくる」ための稽古をすればよいだろう。その最適な稽古が「横面打ち」であると思う。横面を打ってくる手を、弾かずにくっつけて、そして、くっつけたまま離さずに、四方投げ、小手返し、入身投げなどに導くのである。

ただこれだけのことだが、横面打ちで「くっつけて離さない手」をつかうためには、いくつかの必要条件がある。

合気道は引力の養成であるともいわれるくらいだから、くっつけること、そして離さないことが重要であるはずだ。どれだけ引力がついたかを自覚するためにも、横面打ちをやってみるとよいだろう。