【第340回】 元気なうちに

若いころは、誰でも健康など気にもしないだろう。気にしたり、真剣に考えるのは病気になったときくらいで、それも治ればすぐに忘れてしまい、気にもかけなかった。

若いころは、好きなものを腹いっぱい食べられれば満足していた。また、一食や二食抜くことがあっても平気だったし、体重もすぐに回復したものだ。

年を取ってくると、両親や親戚や知人や恩師などが亡くなるようになる。知り合いがどんどん少なくなっていくのは、寂しいものである。

それほど多くはないにしても、これまでいろいろな方に接したり、お世話になったりした。その方の最後がわかった内では、90歳以上も長生きした方もいれば、50歳前に亡くなった方もいる。

日頃体の丈夫な人は、コロッといくことが多いと聞く。日頃元気だった人が、一度病気になると回復せずに亡くなってしまうと、あんなに元気だった人がなぜ、と首をかしげることになる。ちょっとした病気が元で亡くなってしまうとか、まだ若いのに帰らぬ人となるとかあるが、武道家などにもそういうことが多いようである。

どうもその原因は、自分の健康に対する過信からくるものではないかと思われる。年とっても元気でいた人が、あっけなく亡くなってしまうような場合を考えてみると、それまでは元気であったために、あまり食事や運動や睡眠などに注意してこなかったからではないかと考える。

元気な時は、好き嫌いがあったり、少ししか食べなくともよかっただろうし、運動不足、睡眠不足にもあまり気を使わなかったのだろう。しかし、いったん病気になると、体に蓄えが無いので回復のエネルギーがなかなか出てこないのではないだろうか。それで、病気に打ち勝つことができなかったのではないかと思う。

生きるための最低限のものしか食べないのでは、病気などで体調が変わった場合、回復する力が保留されていないために、病気を長引かせたり、病気に負けてしまうのではないだろうか。

若い時は、それだけエネルギーがあるのだろう。多少の偏食でも回復するだろうが、年を取ってくると自然回復は難しくなるだろう。年を取ってきたら、体調を崩さないように、食事とそれに運動や睡眠によく注意していかなければならないだろう。

どんなに頑健で元気な人でも、例外なく水と食物は取らなければ生きていけない。また、ある程度は体も動かさなければならない。

年を取って高齢者になってきたら、体が元気なうちに十分に食物と水分を取り、ある程度の運動は続けるべきだろう。

そのためには、食べ物や水分はどのようなものをどれくらい取ればよいか、また、どのように体を動かせばよいかを、ふだんから考えていなければならないだろう。若い時のように、胃にもたれるようなものをどんどん摂るのも、高齢者の胃にとっては負担になる。しかし、食欲がないからといって、好きな物をつまむくらいでは、栄養も偏るし、体もできない。やはり消化のよいもので、肉や魚、野菜、豆類などをまんべんなく摂っていかなければならないだろう。

高齢者になっても元気でいられるために、また、病気からの回復のためにも、ふだんから食べること、飲むこと、運動などについていろいろと考えたり、工夫していれば、少なくともあとで後悔はしないであろう。