【第337回】 呼吸力は円の動きで

合気道は、相対稽古で技をかけ合い、技の練磨を通して切磋琢磨していくが、やはりある程度の力がなければ技は使えない。というより、力はあればあるほどよいだろう。しかし、力をつけてその力に頼るのではなく、力はつけるが、その力に頼らないようにならなければならないはずである。

合気道における力とは、一般的な腕力や魄力といわれる力ではない。合気道では力を呼吸力といい、一般的力である魄の力と区別している。魄の力は体の力、その人の肉体的な力であるが、呼吸力はその魄の力とは違うはずだ。

しかし、呼吸力の定義はないようだ。自分なりに呼吸力を定義してみると、呼吸力とは、遠心力と求心力を備えた力である。遠心力と求心力の両方がバランスよく調和することによって、引力という相手をくっつける力となると考える。この遠心力と求心力とは、体の力というよりも、体を超越した、体の力とは異質の力である。

合気道では呼吸力が大事であるが、その呼吸力を養成するための稽古法がある。それを、呼吸法という。呼吸法の意味は、呼吸力養成法ということである。呼吸法には、主に二つの稽古法がある。座法と立法である。

座法は、坐技呼吸法といわれる正面から両手を持たせる呼吸法が最も一般的である。立法には、片手取り、諸手取り、両手取り、二人掛け、三人掛けなどの呼吸法がある。

呼吸法で呼吸力をつけていく上で重要なことは、まず、呼吸法は相手を倒す術ではなく、自分の呼吸力を少しでも増強するための稽古であることを自覚して、稽古することである。呼吸法で相手を倒すことを目的にしてしまうと、相手を押したり引いたりしてしまい、腕力はつくだろうが、呼吸力はつかないことになる。

極端にいえば、相手は倒れなくてもよい。手先と腰を結び、腕を折らないで、正しい姿勢で腰から力を出し、左右の足に重心を移動し、さらに息に合わせて動けばよい。呼吸力をつけようと一生懸命にやっていれば、その時相手は倒れなくともよい。だんだんと呼吸力がつけば、その内に相手が倒れるようになるはずである。

呼吸力がある程度つくと、引力がついて、相手にくっつくようになる。引力によって接した相手とくっついたら、離れにくくなる。従って、思いっきり力を入れたり、動いて稽古ができるようになる。ここからが、本当の呼吸力の鍛錬ができるようになるのである。

呼吸力は遠心力と求心力であるから、動きは円でなければならない。押したり、引いたりの動きは直線的であるから、呼吸力の養成にはならない。これは呼吸法だけでなく、四方投げや入身投げや小手返し等などの技(技の形)でも同じである。

呼吸力をすこしでも強力にするためには、相手に持たせた手先を、腰を中心に円く動かし、遠心力と求心力を増大していくことであろう。さらに、規則正しい足づかいと重心移動、そして陰陽の息づかいが大事である。つまり、縦の天地の力と息がしっかりしていれば、大きく力強い遠心力で横の手先に大きな力が伝わることになる。

本格的な呼吸力は円の動き、そして遠心力で、養成していくのがよいと考える。