【第330回】 武道家としての礼儀

武道では礼儀を重んじる。礼に始まって礼に終わる、といわれるくらいだから、武道を学ぶ子供たちも厳しく礼儀をしつけられる。

しかし、礼儀の大事さやその存在意義はある程度わかっても、その意味するところがわかってない稽古人が多いようである。それ故に、形だけの礼儀になっているように思える。

時代により、また社会体勢、国や地域により、礼儀の意味や形は違うが、今回は今の武道家としての礼儀について考えてみたいと思う。

礼儀について辞書を見てみると、「礼儀とは、社会の秩序を保ち、他人との交際を全うするために、人としてふみ行うべき作法」(「大辞林」)とある。なお、礼も「社会の秩序を維持し、人間関係を円滑に運ぶために守らなければならないしきたり」とか「敬意のこもった態度・振る舞い・行為」とあるから、この度は礼と礼儀を同格に扱うことにする。

われわれ合気道家も、合気道の社会、また武道の社会に生きているわけだから、この社会秩序を保ち、そしてこの社会で交際していくためには、合気道・武道社会の礼儀を無視することはできないだろう。

礼儀は「社会の秩序を保つための作法」というように、礼儀にはその社会を構成する対象がある。合気道の稽古の場合、下記のようなものが考えられるだろうが、礼儀は対象によって意味と形が違ってくる。

礼儀の対象 礼儀の意味
拝礼、礼拝 俗界から神界に入る儀式
神や先人との一体化
師範 敬礼 神からの伝承者として敬意を示す
指導を乞う
目上の人、先輩 敬礼 教えを乞う
胸を借りて試させて貰う
同輩 軽礼、略礼 共に頑張ろう
後輩 返礼、答礼、略礼 頑張りなさいよ
よく知らない人 目礼 敵にしない

礼儀で大事なことは、 礼儀は、形だけの礼儀だけに終わらない。礼儀がきちんとできなければ、しっかりした技も使えないものである。その典型的な例は、半座半立ちの四方投げである。手をつかませた方がきちんとお辞儀をすれば、相手とうまく結び、技をかけやすいのだが、礼儀ができてない人には難しいようだ。異教の神様を礼拝するような手つきになると、相手と結ぶことはできない。

礼儀が正しければ、息の使い方もうまくできて、技もうまくつかえるようになる。礼儀がきちんとできてないと、息の使い方ができないことになり、技はうまく使えないだろう。

お辞儀をするときは、まず、息を入れながら(吸う)腰を折って頭を下げ、止まったところで息を吐き、上げるときは息を吸うのである。この息づかいが分からないと、技はうまく使えないだろう。

武道家としての礼儀は、大事である。正しい息づかいで、美しいお辞儀ができるように、礼儀の練習をすることも大事だろう。