【第329回】 猛暑の稽古

梅雨明け10日は猛暑が続く、と昔から言われているが、今年もその通りで、猛暑が続いた。東京の最高気温は35度以上、地方には38度以上のところもあった。

夏は暑いのが当り前だから、暑い暑いと不平をいうのではなく、うまく付き合っていくべきだろう。夏の暑さに不平をいう者は、冬の寒さも寒い寒いと不平をいうだろうから、年がら年中、不平をいっている不幸者になってしまう。特に、武道家たるもの、暑いの寒いのなどとはいっていられないだろう。

さらに、夏の稽古では、息づかい、内臓の強化、筋肉増強とぜい肉削減、気力の増強など、他の季節の稽古よりも得るものが多いようである。

そうはいっても、合気道の稽古も、猛暑の夏は大変である。大汗かいて、喉は渇くし、稽古をした夜は足や身体がほてって、眠れないことも多い。特に、年を取ってくると、若かったときのような稽古は難しいものである。

そこで今回は、高齢者は猛暑の夏をどのように稽古をしていけばよいかを、提案してみたいと思う。

この猛暑の夏の稽古は、1.稽古の前(つまり家から道場まで)、2.稽古(道場の中)、3.稽古の後(稽古を終え、着替えて帰宅)の3場面で構成することにする。

  1. 稽古の前:
    一番大事なことは、稽古に気持を集中していくことである。これは季節や陽気に関係ないことだが、夏の暑いときは、暑さで気持が散漫になるのでより集中しなければならない。そのためには、稽古における今日の課題を持つようにし、そのイメージトレーニングをするのがよい。それには、先ずゆっくり、しっかりした足取りで歩を進めることである。せかせかきょろきょろして歩かないようにする。会社や家庭の俗世のことを振り棄て、気持を稽古に集中するのである。日差しが強ければ、帽子をかぶればよい。それでも暑いようなら、帽子の中に保冷材をハンカチなどで包んで入れると、涼しくて気持がよくなり、頭も働いてくれる。汗をかくと喉が渇くので、水分の補給は十分すること。
  2. 稽古:
    気持が稽古に集中できるように、儀式をきちんとやることである。特に、道場に入るときの儀式が大事である。道場に入ったら、道場を出るまで気を引き締めて、自分に厳しくする。暑くてもだらしなくしたり、足を投げ出したり等はしないようにする。
    稽古には、時間に余裕をもって道場に入るべきである。
    体や筋肉をほぐすために、ストレッチや準備運動をする。若い時は準備運動なしでも平気だったが、年を取ってきたら、ストレッチで体を柔軟にしてから稽古に入るのがよいだろう。
    ストレッチもそうだが、技の稽古に入っても、暑い日は特にゆっくりと、しかし、しっかりとした動きでやるのがよい。そのためには、身体中に意識を入れ、そして、息に合わせて動かなければならない。意識と息による動きは、ゆっくりでも技は効くはずである。技が効く効かないは、技をかける速さとはあまり関係ないものである。こんなことが実感できるのも、夏の稽古からであろう。開祖が言われている「勝速日」である。
    暑いと喉が渇くが、注意すべきことは「口で息をしない」ことである。さらに、もうひとつ、舌の位置を正しく保つことである。舌先が上前歯の付け根に、舌全体は上顎にくっついている状態がよい。この舌の状態を保って稽古するのである。そうすれば咽頭の鼻部、口部、喉頭部が水分で潤って、喉の渇きが少なくなり、疲れも少なくなるはずである。
    稽古が終わったら、クールダウンのためのストレッチ運動をするとよい。これをやるとやらないでは、後の疲れが違う。特に、年を取ってくると、その差は大きくなるようである。
    稽古の次元から俗世の世界に戻る時には、しっかりとお辞儀の儀式をして退場する。
  3. 稽古の後:
    シャワーで汗を流したら、新しい下着に着替え、水分を補給する。今日の稽古の反省をしながら、また稽古の余韻を楽しみながら、ゆっくりと帰宅。できなかったことがあれば、その原因や解決策を考え、次回の稽古の課題とする。
こんなところが、猛暑の稽古の注意点ではないだろうか。