【第326回】 呼吸力の鍛錬

合気道は技の練磨によって精進するので、相対稽古の相手にいかにうまく技をかけていくのかがポイントになる。しかし、稽古の相手をしてくれる相手にうまく技をかけるのは、容易ではない。それは、稽古を真剣にやり続けている者ならよく分かるはずだ。かけようとしても技がかからず、ぶつかってしまったり、相手に反されてしまったり、争ってしまったりしてしまうのである。

技というものは、自分の思うようにかからないものだと思っているのではないだろうか。それ故、相手に反抗心を起させないように、こちらの受けも頑張らないようにし、争わないように気をつかって稽古することになる。

形稽古において、相手にかけた技が利くためには、いろいろな条件があるだろうが、大まかに言ってふたつあると思う。

一つは、かけた技が本当の技であることである。宇宙の法則とまでいかなくとも、法に則ったもの、道にのったものでなければならない。

二つ目は、ある程度の強い力が必要であることである。しかし、この力は合気道が求めている力である「呼吸力」でなければならない。

つまり、技がきくためには、少なくとも「技」と「力(呼吸力)」がなければならないことになる。

しかしながら、知っての通り「技」も「呼吸力」も容易には会得できないものである。そもそも、「技」というものが曖昧である。合気道の「技」は、宇宙の営みを形にした宇宙の法則といわれるが、宇宙の営みとか宇宙の法則がはっきり分からないので、「技」もよく分からないわけである。

開祖は「技を生みだす仕組みの要素」なるものがある、とも言われている。そして、この要素を生みだすために、例えば、「円を五体の魂におさめる」などしなければならない、と言われるのである。つまり、「技」を生みだすための仕組みの要素を会得しなければならないことになるのである。

技はともかく、「技を生みだす仕組みの要素」とは、以下のようなものではないかと考える。例えば、十字で円をつくる、縦と横の円の動きの巡りあわせで動く、陽は陰に変わり、陰が陽になり、を繰り返す、力・気持を中心から末端へ流す、手足を左右交互に規則的につかう、息と気持で相手をくっつける(引力)、等などである。

この「技を生みだす仕組みの要素」がある程度身につくと、本格的な呼吸力の鍛錬ができるようになるだろう。なぜならば、「技を生みだす仕組みの要素」で、稽古相手を引力でくっつけてしまうことができ、また、相手に争いの気持を起こさせないようになるので、力いっぱい動いても、相手との接点が切れなくなるからである。

もちろん、初心者も呼吸法で呼吸力の鍛錬をしているわけだが、技も「技を生みだす仕組みの要素」も不十分なので、力いっぱいの稽古ができないはずである。

この本格的な呼吸力鍛錬の段階に入れると、これまでの求心力主体の力に遠心力が加わり、求心力と遠心力が備わった呼吸力となる。相手はこちらにくっついてしまい、こちらの体の一部となるわけだから、自分の体のように思い切り操作ができることになる。

この本格的な呼吸力鍛錬をするためには、鍛錬になるような相手と稽古するのがよいだろう。慣れてくれば、どんな相手でもできるはずだが、初めのうちは相手を選ぶのがよい。なぜならば、通常の力でも自由に動いてしまうような相手では、つい力に頼ってやってしまうので、あまり呼吸力の鍛錬にならないからである。

だから、腕力でやってはできそうにない相手、技や技要素をつかわなければ動きそうにない相手とやればよいと考える。また、遠心力で技をかけられたことがない人は、平常心で受けを取ることが難しいかもしれないので、自分のことを多少知っている相手とやるようにするとよいだろう。よく知っている相手なら、相手も安心して思い切り持ったり、打ったりしてくるだろうから、こちらにとってはよい稽古になるのである。

新しいことを試みる場合は、相手を選んで稽古することも大切であると考える。