【第325回】 肩を上手につかう

合気道は技の鍛錬で精進していくものだが、基本的に技は手をつかってかける。しかしながら、手を使い過ぎては駄目である。駄目というのは、技が利かないということである。体の末端にある手先の力など、思っているほど強いものではないのである。技を利かせるためには手先の使い方は重要であるが、他の部位の使い方も重要である。

合気道の稽古法は非常にすばらしいものである、と常々感心する。相手の体の弱い部分や制しやすい部分を、掴んだり、打ったり、突いたりするのであるが、考え得るすべての攻撃法を、例えば「片手取り」などの「取り」として稽古するのである。

捕り(技をかける側)は、相手が攻撃してくる部位を手として使い、技をかけ、そこが手足のごとく機能するように鍛錬していくのである。

前にも述べた手を使い過ぎる例は、攻撃された部位で攻撃を処理する、つまり技をかけなければならないところを、手がその役割を横取りしてしまうのである。例えば、肩取りで掴まれている手を、自分の手で引きはがして技をかけようとする。肩取りとは、掴ませた肩を手のように自由に働いてもらうための稽古であるから、できるだけ肩を使って技がかかるようにしなければならない。

しかしながら、肩取りで肩を使うのは、意外と容易ではない。人間の闘争本能が働いて、相手が掴んでいる肩の部分を動かそうとしてしまうからである。相手がしっかり掴んでいれば、ちょっとやそっとで動くものではない。力ではなく、やはり法則に則った技をつかわなければならない。

技にはいろいろな法則があるが、その一つに、初めに相手との接点、(この場合は、相手に掴まれている肩)を動かしてはならない、ということがある。つまり、対極である反対側の肩から動かさなければならない。

反対側の足に重心を移動しながら、肩をその足に載せ、それから掴まれている肩を足と共に移動すると、相手の力が抜けてこちらにくっついてくる。

相手が肩ではなく手を掴んだ場合でも、肩の使い方は同様である。例えば、逆半身の片手取四方投げでも、持たせた手を動かすのではなく、持たせた手と反対側の肩からつかえば、大きい力が出て技が利きやすくなる。

肩をうまく使えば、手先でやるよりも技が利きやすいのであるが、その理由をあげると、
一つは、肩の方が手先よりも体の中心にあるので、より大きい力が出る。
肩取り二教などは、手で決めないで肩を使えば、強烈に決まる。

二つ目は、前と同じ理由で、少し動いてもより大きな遠心力が出る。
手先で相手を遠心力で投げるのは容易でないが、持たせた肩を遠心力で抑えたり投げるのは、それほど力が要らず、そう難しくもない。

三つ目は、掴まれた肩は手よりも右左陰陽に使いやすく、効果も大きい。
手は動きやすいため、左右を陰陽に規則的に動かすのが難しい。が、肩はほぼ固定しているので、左右陰陽で規則的に使うのが容易である。

四つ目は、肩は手先よりも重量と安定性があること。
例えば、四股を踏むと実感できることだが、足が上がるのは、上がる足と反対側の肩が下がるからである。
などであろう。

肩取りだけではなく、合気道の技をうまくかけようとするなら、正面打入身投、一教、二教、四方投げでも、また呼吸法でも、肩をうまく使わなければ、うまく技がきかないはずである。特に、大きな遠心力を使う場合は、肩が大きくものをいう。