【第320回】 求心力でなく遠心力で

合気道は技の練磨をしながら精進していく武道であるが、柔道のように技をかけるために、相手の手や道着を引っ張って倒すことはない。つまり、合気道では引っ張るという求心力は使わないのである。

合気道の動きは円であり、合気道の技は円のめぐり合わせから出てくるわけであるから、求心力ではできないはずである。

実際に相対稽古で相手に技をかける場合、まず、相手と結んだら、相手の円と自分の円との共通の円である接線上を動かなければならない。例えば、「片手取り四方投げ」でこの接線上を守らず、相手の円内に入っていったりすると、相手にぶつかって争いになるし、自分の円内にもってくれば相手は反発し、これも争いになる。

相手と結んで、接線上を動けば、相手は自然についてきてくれる。そうすれば、そこから自分の円の軌跡で動けるようになる。デコボコの円では、円の軌跡にならないので、技にならない。円の軌跡になるためには、遠心力を使わなければならないのである。求心力では、円の軌跡は描けない。

遠心力を出すためには、手先と腰腹が結び、その結びが切れないようにしなければならない。また、相手と接している末端の手先を動かすのではなく、手を体の中心の腰腹から動かして使うようにしなければならない。

強い遠心力を出す場合は、腰腹を大きく動かして転換すればよい。腰腹は足の上にのるようにしなければならないから、腰腹が大きく動くときは、足が左右陰陽で大きく動くことになる。

相手を自分の円の軌跡に入れて大きく動けば、相手は自分を中心にした円の周りを回ることになる。求心力でやっているうちは、捕りで技をかけている自分が、受けの周りを回らされてしまう。合気道の教えは、自分が宇宙の中心に立たなければならないから、相手の周りを回ったのでは合気道にならないし、合気道の目標に進めない。

宇宙の中心に立つ感覚を身につけるためにも、遠心力が使えるようにするとよい。

遠心力の感覚を稽古で持つのが難しければ、剣や杖や鍛錬棒などの得物を素振りするのがよいだろう。求心力にならないよう、遠心力が出るように、鍛錬するのである。得物で遠心力の感覚がつかめたら、呼吸法で鍛錬すればよい。特に、諸手取り呼吸法がよいだろう。さらに強力な遠心力を身につけたければ、二人掛けや三人掛けの呼吸法をやるのがよい。

遠心力の感覚や出し方が分かってくれば、それを形稽古の中でもやるようにすればよいだろう。