【第319回】 筋肉を鍛える

相対稽古でいろいろな人を相手に稽古をしていると、外見とその人の体質はかなり違うことがわかってくる。大きくて腕も太く力のありそうな人でも、筋肉が硬く、意外と力が出なかったり、逆に華奢ではあるが粘っこい筋肉の持ち主が、意外な力を出してきたりする。

知らない相手で、初めて稽古をする場合は、誰でも緊張するだろう。そして、無意識のうちに相手の体格、容貌、雰囲気から、このくらいの力と技量があるだろうと想像するはずである。そして、相手に触れた瞬間に、それが正しかったか、予想以下だったか以上だったか、思い知らされることになる。特に、手首をつかむと、相手の技量はほぼわかる。

その人の技量と筋肉は、大いに関係があると思う。まず、初心者の筋肉は硬いといえる。技の形をまだ覚えていないし、体が畳に馴染んでいないので、筋肉が十分ほぐれないのである。

筋肉をほぐすために一番よいのは、受け身を沢山取ることだろう。力に逆らわず、力まずに、どんな人の受けも取れるようにするとよい。年を取ってから始めた人でも、できる範囲内で受け身をできるだけ取るようにするとよいと思う。これが、後の稽古に大きく影響するはずである。

一度、ほぐした筋肉を使って鍛錬していくと、筋肉に力がついてくる。合気道の動きは上下左右、裏表と四方八方からの力に対応するので、手足や胴は丸みを帯びてくる。腕の筋肉でも力を通せば、粘りのある鋼のような硬さになってくる。

鍛錬を続けていくと、筋肉はどんどんついてくるが、そのままでは硬くなる傾向がある。年を取ってくれば、老化によってさらに硬くなってくる。

筋肉は力が出せても硬くなるので、これを意識して柔くほぐしていかなければならない。つまり、すべてのものは両面をバランスよく備えていなければならないわけだから、硬いだけではだめで、柔らかさが必要である。そのためには、初心に帰って、しっかりと受けを取りなおすことである。

特に、一教から五教の固め技の受けを、自分の限界の紙一重上までのばすのがよい。相手が初心者であれば、自分から伸ばすように導いてやるのである。十分強い筋肉を持っているのだから、頑張れば頑張れるだろうが、それでは自分の稽古にならないので、稽古の意味がないだろう。稽古は相手をどうこうするのではなく、自分が前進することである。

ここで大事なことは、息遣いである。筋肉や関節を伸ばす場合は、息を下腹に入れる(息を吸う)ことである。息を吐くと、筋肉は固まってしまう。

だから、相手の筋肉や関節をのばしてやる場合でも、相手が息を吐いている間ではなく、相手が息を吐き切ったときに加重をかけるようにしなければならないのである。相手のことも考えて、伸ばしてあげるのである。これも、合気道が大事にしている「愛」である。

筋肉は鋼のように、そしてゴムのように、柔らかくなるように鍛えなければならない。鋼とゴム、剛と柔の幅があればあるほど、優れた筋肉ということになる。優れた筋肉をつくるためにも、気を引き締めて、どこまでも稽古を続けなければならないだろう。