【第316回】 技稽古 その2 「まず縦の円を大切に」

武道では、知らない相手の実力を知るために「手合わせ」をするという。合気道での手合わせは、相手の手を取ることが一般的だろう。片手取りとか、諸手取りである。この手合わせで相手の実力は分かるので、合気道の稽古人は意識して、または無意識で、相手の手をしっかり握ってくることになる。特に、外国人は率直にしっかりと握って、手合わせをしてくることが多い。

力があって、しっかり掴んでくる相手を、形と力だけで制することは難しい。それ以上の力、また異質の力をつかわなければならない。いくら力を込めても動かないような強い力で抑えられた手を、自由にし、相手の力を制することができれば、それは技といえるだろう。

相手がしっかり掴んできたら、掴まれた手を円くつかうことである。円くつかうとは、モーターのようにくるくる回すことではない。手を縦と横の十字につかうことである。手の平は縦に立てて掴ませているのだから(剣を握る形)、この手を縦から横に反すことである。手のひらが上を向くか、下を向くかは、技(形)によるが、いずれにしても基本的には直角の90度に反さなければならない。

もちろん手先で反すのではなく、腰腹からかえすのである。そうすると、相手の力が反す手の円に巻き込まれて吸収され、握る力が半減すると同時に、相手がこちらにくっつき、相手とこちらが一体化する。この手や腕自身がまわる円を、縦の円といってよいだろう。

前にも書いたが、開祖は「円のめぐり合わせが、合気の技であります」といわれている。ということは、もう一つの円があることになる。確かに、縦の円で腕をぐるぐるまわすだけでは、相手の力を制することはできても、まだ大した力にはならない。

もう一つの円とは、縦に対して十字に働く横の円である。つまり、肩や腰腹や下肢を支点として動く、手の動きである。縦の円に加えて、この円をつかえば、より大きい力が出るし、相手を大きく動かすこともできる。

この横の円は、形稽古で稽古をしていれば、それほど難しい円ではない。ただ、ひとつ大きい問題がある。それは、慣れていてやりやすいせいか、まず、この横の円から動きはじめてしまうことである。強い力で持たれた場合、横の円からでは相手の力を制することは難しいし、強い力では動かないものだ。

縦と横の円のコンビネーション、つまりは円のめぐり合わせということになるが、先ずは縦の円からつかわなければならない。これは、法則である。誰が何時、誰とやっても有効であるはずだ。縦と横の円、また、縦の円からつかうということは、「技」または「技を生みだす仕組みの要素」と考えてよいだろう。