【第312回】 はじめの結びが命

合気道は通常、ふたり一組で相対稽古をする。お互いが技をかけたり受けを取り合いながら、精進していくものである。

相手がうまく倒れてくれればうれしいが、頑張られると癪にさわるので、なんとか相手を倒そうとしてしまうものだ。

相手を倒そうと一生懸命に稽古するのは仕方がないが、それだけに集中してしまうと、大事なことを稽古しないことになるので問題である。倒すことに中心をおくと、その前のプロセスがおろそかになる。これでは決してうまくできるはずがない。そして、倒すために辻褄をあわせようとするから、無理が生じるのである。

合気道の稽古は、相手を倒す稽古ではない。相手が自ら喜んで倒れるようになる稽古をしなければならないはずである。そのためには、相対の相手と結び、一体化できなければならない。

合気道の技の形稽古は、相手と一体化できるように、結びの稽古をしているものと考える。手を取らせたり、胸や肩を取らせたりして、手や胸や肩で相手と結び、相手と一体化し、相手を同調させてしまうのである。

相手と結ぶためには、最初に相手に触れる瞬間が大事である。相手に手を取らせた瞬間、胸や肩を掴ませた瞬間に、相手と結んでいなければならない。結ぶ引力が弱ければ、相手の手が接点から離れ、再度、攻撃に転じてくることになる。

だから、相手に持たせた手が離れたら、命がなくなると思わなければならない。例えば、「後ろ両手取り」で、相手の手が離れれば、その手で首を絞められたり、体を持ち上げられたりしてしまうだろう。合気道は武道なのである。

正面打ちで手(尺骨)を合わせる際も、弾くのではなく、結ぶようにしなければならない。相手がこちらの手を取るのと違い、相手とこちらの力の方向が逆方向でまともにぶつかるわけだから、ぶつからずに結ぶためにはいろいろ工夫が必要になる。入身して、腰腹からの力、折れない手、手を螺旋でつかう等などである。

このように、相手と接触する瞬間が重要である。この触れた瞬間を疎かにすれば、うまくいかないため、倒すための帳尻合わせをしなければならなくなる。これが、争いの元締めであろう。

しかし、相手と接触するためにも、その前に大事なことがある。はじめの前、はじめのはじめの結びである。それは「気結び」である。

稽古相手が前に立ったならば、触れ合う前に、気持ち(心)で相手と結ぶのである。気持で結ばなかったり、相手の気持から逃げては、だめである。相手と「気結び」するから、相手にこちらの手を取らせたり、肩をつかませたりできるのである。

この「気結び」がどれだけできているかがわかるのが、太刀さばきであろう。相手に木刀で打たせて、その打ちを入身してさばくのである。相手と気持(心)で結んでなかったり、木刀や相手の気持から逃げれば、木刀をさばくことはできずに、打たれることになる。