【第308回】 合気道でつかう力

合気道は、通常、相対で技をかけ合って稽古をする。自分のかけた技で相手が倒れたり、抑えることができたりすると、うれしいものだ。そして、相手が倒れれば技がかったとか、技が効いた、と思ってしまう。

しかし、本当は、技などそう簡単にかかるものではないだろう。初心者は技はかかるもの、相手は転んでくれるものという前提でやっているのだろうが、はじめの内はそれでもよいだろう。だが、高段者は、技はかからないもの、だからかかるように工夫して稽古しなければならないものと考えるべきだろう。

技がかかったとか技が効いたということは、掛けた本人だけでなく、受け側や第三者との満場一致でわかるものである。これは参ったと受けを取っている側や第三者も思うようにならければ、技が効いた事にはならない。

技が効いた、参ったと思うのは、

等などである。

この三つの例の中で、最も参ったと思うのは、最後の「相手の体形から想像もつかないような力で技をかけられたとき」だろう。もちろん最後の想像以上の力を出すためには、無駄のない動きと、相手をくっつけて一体化しなければ、出てこないものである。

人は常に、他人を見て値踏みをしたり力量を計っているし、それが大体は当たっているものである。しかしながら、相手に計られた力しか出せなければ、武道でもなく合気道にもならないだろう。もしそうなら、体力のあるものが力を出すわけだから、体力に頼るものになってしまうだろうし、稽古を始める前から、倒れる倒れないが決まってしまうことになる。もしそうなら、体力づくりに走ってしまうことになろう。それが高じれば、スポーツのような重量制で稽古せざるを得なくなる。

武道の面白さは、相手が想像するより以上の力を出せる可能性があることである。小柄でも、大の相手を制することもできるようになるのである。しかし、そのためには、力が出るような体をつくり、その体を力が出るようにつかっていかなければならない。

合気道で技をかけるときは、手に力を入れてかけるが、技をかけるに際してつかう力には、いくつかの種類に分類できるようだ。
  1. 手の力:肩から手先までの間の力で、弱い力。これが初心者が使っている力であり、相手が予測できる力である。
  2. 腰腹の力:肩を貫いて、腰腹から出る力。相手は握っている1の手の力を予想するが、実際には腰腹を掴んでいることになるので、予想以上の力に抵抗を断念することになる。
  3. 表の力:体の表(背中、腰側)から出る力。人は本能的に体の裏(胸、腹側)からの力を使うものだが、表の力に比べると全然弱い。表の力を使う最適の練習が「後ろ両手取り」である。
  4. 体重:歩を進めて技をかけている際、体重を軸足に移動しながら移動する。一教でも二教でも四方投げでも、体重が軸足にかかるほど、しっかりと技が掛る。典型的な技は「半座半立ち四方投げ」や「二教裏」であろうが、うまくいかない大きい理由は、体重を充分に使わない事にあると見ている。
  5. もう一つの力がある。どんな名前がよいか分からないが、仮に「遠心力の加重力」としておこう。
    体重移動による時間差と遠心力によってできる、重く、迅速な力である。自分の体重を遠心力にのせ、その力で技をつかうものであり、3の体重に遠心力が加わるのでより大きな力が働くことになる。
    力がある相手にがっちり取らせた「諸手取りの交叉取り」は、この「遠心力の加重力」が働かないと、うまくいかないはずである。
次回は、この続きとして、「遠心力の加重力」とはどういうものか、どうすれば身につくか、を考えてみたいと思う。