【第305回】 肩甲骨と股関節を柔軟に

街で高齢者をよく見かけるが、若者の歩き方とは違うようである。以前だったらロボットのような歩みだとでも言われただろうが、今やロボットは若者以上の歩みをするようになったから、ロボットのように歩くと言うとロボットに失礼かもしれない。

80歳90歳の高齢者の歩みが、若者とどう違うかというと、あえていえば、すべて違うので歩みも違ってくることになる。心と体を80年90年使えば疲労を起こすし、油が切れて、カスも溜まるだろう。周りの若者と比較しなくても、自分の若い時と比べればよく分かるはずである。

すべてが退化、疲労するからということは正しいが、合気道をやっている高齢者の参考にはならないだろう。合気道を修練している高齢者は、それが分かっているから合気道の稽古をしているはずであり、分かりながら稽古をしているはずである。しかし、若者までは戻らないまでも、少しでも若者のようにやり続けるためにはどうするかが、はっきりと分からないまでのことだと思う。

若者との大きな違い、つまり年を取るに従って機能低下する部位を、意識して鍛え、機能回復をすることが、高齢者の心体を高齢化させないポイントだと考える。

街の高齢者の歩みをながめると、とりわけ肩甲骨と股関節が凝り固まっていて、よく機能していないのが一目瞭然である。ここが固まっていると、つながっている手足がコチョコチョとしか動かず、低次元のロボットのような動きになってしまう。

稽古をやっても同じで、高齢者はこの肩甲骨と股関節が一般的に固くなっているといえるだろう。固いと手足の末端を使うことになり、体の中心の腰腹を力が使えないので、大きな力を出せなくなる。それでも、大きな力を出そうとして無理をすると、肩や腰を痛めることになるようだ。

肩甲骨と股関節は柔軟に保ち、そしてますます柔軟にしていかなければならない。

そこで高齢者が肩甲骨と股関節を柔軟に保ち、そしてさらに柔軟にするためにはどうすればよいか、ということになる。データを取るなど科学的な根拠はないが、自分の体験と感性でいうと、

〇先ず、年を取ったら身体が固くなる、肩甲骨と股関節は固くなるのが当然とする一般的な先入観を、なくすことであろう。身体はやったことに素直に応えてくれるので、柔軟にしようとすればするほど、柔軟になるはずだ。年を取るということは、それを長くやるわけだから、若いときより柔軟になっても不思議ではないだろう。もちろん、何もしなければ、加齢とともに、身体も素直に年相応に枯れていくことになる。

〇次に、柔軟にすべく、肩甲骨と股関節を意識することである。そして、肩甲骨と股関節と対話をしながら、技をつかったり、柔軟運動をすることである。若いときは意識しなくとも一生懸命に稽古をしていれば、自然と肩甲骨と股関節は言うに及ばず、身体全体が柔軟になるが、年を取るとその頃のように激しい稽古はできないわけだから、重点的なスポット稽古がよいだろう。

〇三つ目は、その肩甲骨と股関節に意識を入れたら、そこを息(呼吸)によって動かすことである。下腹に息を入れる(息を吸う)と、肩甲骨や股関節は弛むので、先ず息を入れて弛めなければならない。身体が弛むと、手はくっついてくる。そうすると、相手は倒れることになるので、それを息を吐きながら力を加えて、倒れるのを助けてやればいい。
息づかいによって、肩甲骨と股関節は弛んだり締まったりすることになるから、これを繰り返せば、肩甲骨と股関節は柔軟になるはずである。特に肩甲骨は、固め技の受けの時に意識を入れて、息に合わせてしっかりとやってもらうとよい。息を入れながら、極限の紙一重上まで伸ばしてもらうのである。

繰り返しやればやるほど、柔軟になるわけだから、年を取れば取るほど柔軟になっていく可能性はあるはずである。もちろん、どこかに限界はあるはずだ。少なくとも自分はそう思って稽古をしているが、今のところは間違いではないようだ。最後の結果がどう出るかが楽しみだ。