【第298回】 遠心力

合気道は引力の養成であるともいわれる。事実、長年稽古をしていくと稽古相手がどんどんくっつくようになってくる。初心者は相手をくっつけられず、弾いたり、相手を離してしまうものだ。

この引力という力を、合気道では呼吸力と言うはずである。この引力を養成するために、呼吸力ということを大切にしている。そのための鍛錬法として呼吸法をつくり、どの道場でもこの呼吸法を必ず行っているはずである。

呼吸力とは力であるが、腕力、体力とは違う。腕力や体力は本人の体格にほぼ比例し、外から見てもその力がほぼ検討がつく。これに対して、呼吸力は体格とは比例しないので、その力は外からは予想できない。小が大を制すのは、この体格と無関係な呼吸力ということになるだろう。

呼吸力の最大の特徴は、先述のように相手をくっつけてしまうことである。なぜくっつくのかというと、この力は求心力と遠心力の相反する力で構成されるからといえるだろう。通常の、いわゆる腕力は押したり突いたりと、出るか又は引っ張るかの一方方向に働く力と言っていいだろう。

相手をくっつけるには、相手と接する時の接し方と、そこから技をかけていく時が重要である。しかし相手がくっついてきて、相手と一体化するのも容易ではないが、そこから技をかけていくことも難しいものである。

その原因の一つに、呼吸力の中で、陰陽のバランスが取れていないことがある。要は遠心力が弱いのである。

合気道では、技を使う際に後退しない、つまり後ずさりすることはない、と教えられている。後ずさりをするというのは、遠心力が使えないことになるわけで、間違いといえるだろう。相手に技を掛けるときは、相手のまわりを回るのではなく、相手に自分のまわりを回らせるようにしなければならない。これには遠心力が必要である。

遠心力から出る力を使うためには、やるべきことと、多少の努力が必要である。先ず、遠心力の支点となる腰に力を集中し、その力を進むべき足に移動させていかなければならない。

これが分かりやすいのは、「片手取り四方投げ」であろう。持たせた手を腰と結び、重心をこの側から他方の足に移し腰を反転すると、手は円を描き、相手は遠心力で円の外に飛び出すようになる。腰を支点にして自分の腕を左右に振ると、腕が遠心力で外側に向かって出るというのと、同じ原理である。この場合は、自分の腕が相手と繋がって長くなる、と考えればよいだろう。

この遠心力が働かないと、四方投げだけではなく、他のすべての技(形)も効かないはずである。人は無意識の内に、自分の方へと引っ張る求心力を使うものである。これを意識転換して、その求心力に見合うように、遠心力を養成しなければならないだろう。

遠心力と求心力がひとつに調和すれば、呼吸力になり、相手がくっつくようになるし、技が効いてくる。相手に技が効くようになるには、遠心力のつく稽古を意識してやるのがよいだろう。遠心力をつける稽古には、やはり呼吸力(遠心力+求心力)養成法である呼吸法がよい。