【第296回】 遠心力・求心力の筋肉

合気道は引力の養成である、ともいわれている。合気道の技の稽古で、相対する相手を引っつけてしまう稽古を通して、すべての万有万物と結び、一体化する力を身につけていくのである。

また、合気道は呼吸力の鍛錬とも言われる。遠心力と求心力を兼ね備えた力、呼吸力を身につけ、その呼吸力を増強していくことといえるだろう。

日常生活においての力は、一般的に自分の方に引き込むか、相手を弾いてしまうような力である。

合気道の技の稽古でも、この習慣が抜けず、相手を引き込んだり、弾いてしまうような力の使い方をしてしまいがちである。

相手を引き込んだり、弾いてしまうのは、主に求心力を使うか、求心力が遠心力に比べて大き過ぎるからといえるだろう。

求心力主体の体の使い方をしていくと、筋肉、筋、そして関節が硬くなっていくようである。硬くなるのは年のせいもあるだろうが、力の使い方が大いに関係あるはずである。

合気道では、筋肉や関節が硬くなって機能低下することを、「カスがたまる」というようである。カスとは、硬くなる筋肉だけでなく、脂肪がついたり、血が濁ったりすることも含まれる。

開祖は、体のカスをとるのに合気道は最適であると言われていたし、それ故に、合気道は健康法であるとも言われていた。

しかし、カスをとり、健康法であるべき合気道も、やり方を間違えれば不健康になるし、カスが益々たまることになる。従って、ただ稽古すればいいということではなく、カスがとれるような稽古をしていかなければならない。

求心力が強く、力を引き込むとカスが増えるのだから、カスを取り除くためには、その反対の力を使い、それを強くしていくべきだということになるだろう。つまり、求心力と対極にある遠心力を使うようにし、そして、その遠心力を増強していくのである。技の稽古で注意してやるのが理想だが容易ではないだろうから、以前に書いたように、鍛錬棒などを片手で遠心力で振るなどして、鍛えるのがよいだろう。

遠心力を鍛えていくうちに、遠心力がこれまでの求心力のレベルに追い付き、遠心力と求心力のバランスがとれて来るはずである。このバランスがとれた時点で、カスが取れていくようである。

体のカスをとるためには、関節、筋肉、筋をほぐさなければならない。遠心力と求心力のバランスがとれて来ると、関節を弛めることができるようになり、関節、筋肉、筋のカスがとれてくるのである。

関節が弛んでくると、腕や体を柔軟な鞭のように、ひとつにつかうことができるようになるので、体全体の力をつかうことができるようになり、大きな力が出る。ゴルフでも、遠心力(伸びる腕)と求心力(曲げる腕)の力のバランスが取れた時、速い腕の振りができる、と聞く。

この遠心力と求心力のバランスが取れた力を、合気道では呼吸力というのだと考える。強い力であり、くっ付けてしまう引力を持った力である。

合気道では、まずは天之浮橋に立たなければいけないと教えられているが、この遠心力と求心力のバランスが取れた状態も天之浮橋のはずである。筋肉や関節も、遠心力と求心力のバランスがとれた、天の浮橋の状態にして使っていかなければならないことになる。

まずは、遠心力と求心力のバランスが取れるまで、つまり、天之浮橋に立てるように、遠心力を身につける稽古を意識してやるのがいいだろう。