【第293回】 腰と腹

日常生活でもそうであるが、特に武道では「腹と腰」が大事であるといわれている。確かにそうであると誰でも思うだろうし、反対者はいないだろう。だから頻繁に、腰をつかえ、腹をつかえ、下腹に気を落とせとか、力を入れろなどと言われるのだろう。

稽古を重ねている内に、合気道では体の表をつかわなければならないということが分かってくる。体の表とは、何度もいっているように、背中側であり腰側である。だから体の表にある腰をつかうのは理屈でわかるし、実際に腰を使うと使わないでは、力の質も威力も違ってくる。

そこで、腹である。腹が大事なことはわかるが、腹は体の裏にある。この裏を使うことは、合気道の体の使い方に反することになる。使わなければならないのだが、使ってはならないのだ。またしても矛盾であり、合気道の公案である。

この公案は、次のように考えて実践してみれば解けるだろう。まず、力は体の要である腰から出るものであり、そして力はここに集る。手で技を掛ける場合、手足を動かす場合は腰からであり、腰が体の要であり支点となるのである。

腰と表裏一体となっているのが、腹である。しかし、合気道の公式によって、腹は動かせないので、腹は先に動かさずに、腰から動かすのである。腰が支点になり腹が腰を支点にしてめぐる(円運動)のである。

そうすると腰の力が腹に集り、腹が重くなり、その重さが手先に伝わって大きな力になるのである。

腰を中心にして、腹を使うことによって、体重が腹に集り強力な力が出るし、素早い動きや変換ができるようになる。二教裏でこの腹の力が加われば、相当な威力を発揮するし、太刀捌きでも、腹による素早い体の変換で処理することができるようになるはずである。腹を始めに動かしても(つかっても)、強い力も、早い捌きもできないだろう。

腹が十分に働くためには、腰を支点として腰から使わなければならないが、その他にも注意することが幾つかある:

腰を支点にして腹を使うとよいということが分かりやすい稽古、腰と腹の密接な関係が最もわかりやすい技は、「交叉取り二教」と考える。

また、腰を支点に腹を動かしたり、腰と腹の連動を促進するのに最も適した稽古法や技は、呼吸法と四方投げだと思う。

理合いがわかったら、後は稽古で試して、そして身につけていくことである。