【第287回】 合 気 ( 道 歌2)

道歌は極意や奥儀を詠っているわけだから、難解ではあるが、じっくりと詠み込んでいかなければならない。しかし、頭だけで理解しようとしても、恐らくギブアップということになるだろう。単語の一つ一つの意味などは知識として頭を使う事になるが、大事なことは体で感じること、つまり作者の心と結ぶことではないだろうか。

合気道という名称にもなっている「合気」についての説明や解釈は、ないに等しい。「合気」とは何か、についての、誰もが納得できる明確な説明がないのである。

唯一、「合気」とはどういうものなのかを示されているのが、開祖の道歌であろう。従って、「合気」とはどういうものかを知るためには、開祖の道歌を研究するしかないだろう。

「合気」がどういうものなのか、最もわかりやすく詠われていると思われる歌は、次のものであろう。
合気とは 万和合の 力なり たゆまずみがけ 道の人々
この歌から、まず、「合気」は力であり、その力とは万(よろず)に和合する力である、ということが分かる。つまり、腕力や肉体的な力ではないということである。

合気道の修行の目標は、宇宙との一体化であるから、「合気」とは宇宙と和合する力ということにもなる。従って、万(よろず)とは、宇宙であり、万有万物である。また、宇宙とは時間と空間という意味であるから、「合気」は過去現在未来の宇宙、万有万物と和合する力ということになるだろう。

このほかに、開祖の道歌で「合気」とは何かを示されているものとして次の歌があるので、そこから「合気」の意味をさらに探してみよう。まだまだ自分のレベルが低いので、よく分からないところも多いが、敢えて挑戦してみる。

合気とは 神の御姿 御心ぞ いづとみづとの 御親とほとし
(試解釈: 合気とは、神様の姿であり心である。縦横(厳・瑞)十字に働いて下さる神様は貴いものである)
合気とは 筆や口には つくされず 言ぶれせずに 悟り行へ
(試解釈: 合気とは、ものではないので形がなく、文章でも、言葉でも説明できない。悟っていくしかない)
合気とは 解けばむつかし 道なれど ありのままなる 天のめぐりに
(試解釈: 合気とは、解釈しようとすれば難しいものだが、宇宙の営みのありのままの姿である)
合気とは 愛の力の 本にして 愛はますます 栄えゆくべし
(試解釈: 合気の力のもとは愛であるから、合気によって愛がますます繁栄するようにしなければならない)
合気にて よろず力を 働かし 美しき世と 安く和すべし
(試解釈: 合気の力を万有万物に働かして、美しい楽園をつくっていかなければならない)
いきいのち 廻り栄ゆる 世の仕組 たまの合気は 天の浮橋
(試解釈: 生き死にを繰り返して、螺旋で完成を目指す世の仕組みを成すのは、天の浮橋に立つ魂の合気である)
天地(あめつち)は 汝れは合気と ひびけども 何も知らずに 神の手枕
(試解釈: これが合気だといっても、天地は何も知らないように横たわっている。または、天地は私に和合が大事といっているが、気付かないまま、神様のものである天地を手枕として安心して横たわっている)
武産は 御親の火水(いき)に 合気して その営は 岐美の神業
(試解釈: 引力は、宇宙の縦と横(火と水)の息と和合し(合気して)、その働きはイザナギとイザナミの螺旋(十字)の神業となる)
天地人 合気になりし いづの道 守らせ給え 天地の神
(試解釈: 天と地と人が(縦に)結び合った道を、天地の神よ守って下さい)
日地月 合気になりし 橋の上 大海原は やまびこの道
(試解釈: 天地人が和合して結び合えば、そこは天の浮橋となり、宇宙のひびきが響き合うところである)
火と水の 合気にくみし 橋の上 大海原に いける山彦
(試解釈: 火と水の相和している天の浮橋では、まわり中で宇宙の響き(山彦)が活きている)
ふとまにと 神習ひゆく みそぎ業 神の立てたる 合気なりけり
(試解釈: 宇宙の法則を神に習っていくみそぎの業は、神様がつくられた合気なのである)

この他にも「合気」の道歌はあり、開祖は多くの「合気」に関する道歌を詠われている。開祖はこの難解で説明が難しい「合気」ということを大事に考えられ、何とか後進に伝えたいと思われていたことが伺える。

これらの道歌から、「合気」とは何かを抽出すると、「合気」とは次のようなものではないだろうか。

○過去現在未来の宇宙、万有万物と和合する力 ○神様の姿であり心であり、縦横(厳・瑞)十字に働く ○形がなく、文章でも、言葉でも説明できなく、悟っていくほかないもの ○宇宙の営みのありのままの道 ○もとには愛がある ○魂(たま)であって、天の浮橋に立たなければならない ○天地、宇宙から見ればごく当然のこと ○天知人を結びつける ○日地月を和合させる ○火と水を相和する ○神様がつくられたもの

確かにこのように「合気」とは何かということを見ていくと、「合気」を一言ではいい尽くせないものだし、身につけるのも容易ではないことがわかる。

しかし、これらの道歌から、「合気」とは何かを敢えて言わせてもらうならば、万(よろず)和合の力、宇宙と一体化する力、ということであろう。従って、合気道は「合気」の道であるから、万に和合する道であり、宇宙と一体化するための道ということになるはずだ。