【第285回】 末端を攻めない

大リーグのイチローと草野球の選手のバッティングの一番大きな違いを一言でいえば、草野球の選手のバッティングは手や腕の末端から動かすのに対し、イチローのバッティングは体の中心から動かしていることであろう。日本の舞踊でも西洋のダンスやバレーでも、上手な人は体の中心から動いて手や足の末端を動かしている。下手は逆に手足の末端から動かしている。

合気道の技の練磨においても、同じことがいえるようだ。初心者はやはり末端の手や足から動かすので、いわゆる、手足を振りまわしてしまうことになる。手足の末端を振りまわすということは、体の中心が動いていないということと、体の中心と手足の末端が結んでいないということである。

従って、自分の体の中心からの力が手先に伝わらないし、相手と結ぶことができず、相手を弾いてしまうことになる。それでは技はかからないし、引力養成の合気道にならないだろう。

合気道でも、体の中心から手足を動かして、体をつかっていかなければならない。そうすれば、力も出るし、末端を動かすよりも効率的である。中心を少し動かすだけでも、末端は大きく動くものである。末端をそれだけ大きく動かすよりも、中心をちょっと動かした方が、容易であるし、効率的だろう。

初心者はどうしても末端から体を動かして技をかけるものだが、また技をかける相手に対しても、相手の中心を攻めずに末端を攻めてしまうものだ。一教でも四方投げでも相手の手先だけを攻めるから、中心が崩されていない相手は、手が痛いだけで、技がかかっている気がしないはずである。

末端を攻める典型的な技が二教、三教、四教と小手返し等であろう。とりわけ二教裏は、少し鍛えた相手にはかかりにくいものである。末端の手首を攻めても、頑張られてしまうのが落ちである。

二教(表・裏)がかかるようにするためには、自分の中心から動かすことのほかに、相手の中心を抑え、相手の中心から攻めていくことがある。つまり、腹、肩、肘、そして手首の順である。相手が相当鍛えているようなら、相手の腹と結んだら、肩をきめ、肘をきめる気持と体つかいになって、いつでも肩、肘をきめられるようにしながら、手首をきめるようにすればよいだろう。

従って、二教手首回しは、少なくとも肘ぎめで肘をきめるぐらいに、まず自分の肘を深く入れ、両手を絞って力を調節するようにしなければならない。始めから末端を攻めても、相手の手首を浅く抑えることしかできず、力が入らないので、技は効かないことになる。

理想の技つかいは、技をかけたら、相手を根こそぎ持っていってしまうことだろう。末端の手足などに構っていては、相手を根こそぎ持っていくことはできない。