【第284回】 頭

合気道は、技を練磨して精進していくが、技は手を使ってかける。しかし、手で技をかけるからといって、手だけを鍛えても技はかからないものである。肩、腰、腹、下半身など、他の部位も鍛えていかなければならない。

人間は有機体であるから、一見ばらばらに見える体の部位も互いに深く関連しあって、ひとりの人間の体として機能しているのである。体の各部位は、体全体に有機的につながっているわけである。

アレクサンダー・テクニーク(Alexander Technique)という、心身(すなわち自己)の不必要な自動的な反応に気づき、それをやめていくことを学習する方法がある。この学習方法は、人間の動きと行動における基本原理に基づいたものであるが、その基本原理の中に、「有機体は全体が一つとして働くわけだが、頭と首と背中の関係が、有機体全体に、その姿勢や健康に対して、最大の影響を及ぼす」という。

頭や首や背中の姿勢やつかい方が、体全体に大きな有機的影響を及ぼすというのである。

これを武道的に捉えれば、頭や首や背中の姿勢やつかい方によって、武道の体をつくることができるし、また、技を効率的につかうこともできるということであろう。

そこで、これから数回にわたって「頭」「首」「背中」を、武道の体と合気道の技とを、有機的関係で書いてみたいと思う。

まず、今回は「頭」である。「頭」(head)は、体のてっぺんについている。人体の中心である脊推(背骨)の上にのっている。頭は5キロほどあってけっこう重いものである。この重い頭を動かそうとしたとき、体はバランスをとろうとする。そのため、頭とつながっている首と脊推(背骨)が頭を動かすことになる。

重要なことは、頭と首と脊推を、いかに一本に繋げて機能させるかである。アレクサンダー・テクニークでは、朗読や発声の際、頭を後ろに引いてしまうと、胸を持ち上げ、脊推を反らせ、腰幅を狭め、足を固め、足指で床を押しつけてしまうため、声の効率を下げることになるという。

逆に、頭を重力に従って楽にバランスをとれば、首と脊推はリラックスして伸び、体が弛んで効率を上げるという。

合気道の稽古でも、効率のよい体の姿勢や体のつかい方のためには、頭の取り扱い方が大事である。合気道の場合は、まず頭の角度とリラックスであろう。

合気道の体つかいの原則は、平面につかうということで、捻じることは厳禁であるわけだから、頭をフクロウのように横にまわすことはない。頭は頚椎を中心に上下に動かすだけである。すると、その角度が重要になる。あまり下を見過ぎたり、上を見過ぎるような角度にすると、頭と脊推は離れて、一本につながらない。

頭が有機的に機能できないと、体が効率的に機能しないので、技も効かないはずである。合気道での頭の角度とは、目線であろう。目線を落としたり上げ過ぎないことと、一点をじっと見ない事である。相手を見たり、自分の手等を見ると、頭の角度は崩れるし、固まってしまう。

合気道の技は、体重の移動で体重を利用してかけていくため、体重をかけた足に頭の重さも加わらなければならない。その時の5キロの差は大きい。そのためには、頭が重心をのせる足の真上に乗るようにしなければならない。

しかし、股関節が硬ければ、頭の重量は足には乗らないから、これは簡単ではない。とりわけ坐技で技をかけるときには、頭の重さをつかわないと、効率が悪くなる。

足と頭が首と脊推を通してつながると、地に着いた足の感触が頭で感じるようになり、頭で動いているという感じがする。これも、頭をつかう合気道といってもよいだろう。

参考文献  『図解 アレクサンダー・テクニーク』(産調出版)