【第277回】 高齢者の稽古

合気道は武道であるから、本来は、高齢者の稽古とか若者の稽古などという区別はないのだろう。いうなれば、本来の稽古、正しい稽古をすればよいだけであって、高齢者も若者もないわけである。

しかし、若者も高齢者も現にいるわけで、それで、若者は若者らしく、高齢者はそれなりに稽古しており、それが自然でよいのではないかとも思う。若者が年寄りじみた稽古や、高齢者が若者の稽古をしているのは、不自然で危なっかしく見えるものだ。それ故、若者は若者の、そして高齢者には高齢者の理想の稽古法があるのではないかと考える。

それでは、高齢者の稽古はどうあるべきだろう。高齢者は若者とは対照にあるわけだから、若者と対照して考えればよいだろう。

まず、高齢者の特徴は、スタミナが無くなるのが段々速くなっていくことだろう。従って、スタミナが少しでも続くようにすることが、高齢者の稽古では大事になる。スタミナを無くさないようにするためには、無駄な力やエネルギーを使わないようにすればよい。

無駄な力やエネルギーを使わないようにするためには、無駄な動きをしないことである。手をばたばた振り回したり、無駄な足遣いをすれば疲れてしまう。

というよりは、手と足が腰腹に結び、手足が連動して規則正しく左右交互に動かなければ疲れるし、手の軌跡、足の軌跡、腰の転換角度が少しでもずれると疲れるのである。

技には無限に細い手の道、足の道等があり、その道に近づけ、その道に乗り、そして道を進むのが合気の道「合気道」であろう。
その道に手足が近ければ近いほど疲れないことになるだろう。

もう一つ大事なことは、呼吸である。息遣いを間違えたり、うまくできなければ、ハアハア、ゼエゼエと息切れがして疲れ、スタミナも消耗するのは、誰もが経験することである。疲れているかどうかは、呼吸を見ればわかるものだ。

息が切れない為に、高齢者にとってよい方法は、息に合わせて動き、技を掛けることである。つまり、動きに合わせて息をするのではなく、息に合わせて動くのである。これは、若者もやった方がよい。

若者は、どちらかというと体が先に動いてしまい、動きに息を合わせてしまう稽古をしている。それでも、肺や心臓も丈夫になるから、若い内は極限まで体を鍛えながら、その結果息遣いを覚えるのもよいだろう。

さて、高齢者が息に合わせて動くためには、息遣いを練習しなければならない。自分の技のイメージに合わせて息をし、その息に従って体を動かすのである。イメージと息は、自分のペースで速くも遅くも自由に出来るはずである。

息と体の動きが一致しないと、息が上がり、心拍数が上がって、スタミナがなくなり、疲れることになる。若者のように力んだりせず、息に動きがついて行くように、息をゆっくりとし、それに動きを合わせて、じっくり稽古をしていくのがよいだろう。