【第277回】 脳と身体

合気道は宇宙の営みを形にした合気の技を練磨して精進していく。はじめは合気道の技の形を何度も何度も繰り返して稽古し、形を覚え、そして合気の身体をつくっていくが、それがある程度できれば、次に、合気道の形の稽古を通して合気の技を見つけ、身につけていくことになる。

しかし、合気の技は宇宙の法則、宇宙の条理に則っているはずだから、容易には会得できないので、安易に稽古を繰り返せば身につくものではない。宇宙を対象にしている訳だから、技を身につけるには、小手先ではなく全身全霊を駆使しなければならないはずである。

人間の身体は、摩訶不思議としか言いようがないだろう。何ものが何故このような五体(頭、二本の手、二本の足)をつくったのか不思議であるが、合気道の開祖、植芝盛平翁は、人間をつくったのは宇宙であるといわれる。人間の万有万物は、宇宙をつくった一元の大神が宇宙生成化育のためにつくったと言われるのである。それ故、宇宙と人間はつながっているといわれるのである。

そうだとすると、人間が宇宙の営みを感じ、それを技として、宇宙がつくった身体で表現することはできるはずである。

宇宙の営みを感じ、それを技として身体で表現するためには、脳と身体をつかうことになる。脳は五感から情報を取り入れ、内部計算をし、そして身体に運動するよう指示する。

よい技をつかうためには、まず、この脳の五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)の感覚を鋭敏にしなければならないことになる。どこまで鋭敏にという決りはないが、最終的には宇宙のひびき「言霊」を感じ、同調するところまでだろう。開祖が「この山彦の道がわかれば合気は卒業であります」と言われているからである。感覚をよほど研ぎ澄ましていかなければ、そのような境地に行きつくのは難しいだろう。

次に、脳の内部計算である「考える」で、善し悪し、なぜ、どうして、どうすればよいのか等を考えなければならない。技の稽古をただ漠然とやるのではなく、試行錯誤しながら、考えてやることが重要だろう。

脳で考えることは、コンピュータでは計算していることになるから、性能のいいコンピュータと同じように、正確で迅速に考えるようにすればよいのだろう。

三つ目は、脳からの出力とその指示に従う身体動作である。脳からの出力の指示があっても、身体がその通りに動いてくれなければ、よい動作や技にならない。脳が希望するように機能する身体を鍛えなければならない。また、うまく機能しないのはどこか、なぜか、どうすればいいのか等を、脳の五感と内部計算にフィードバックし、その出力された回答を再び身体で試すという試行錯誤の繰り返しで、精進することも大事である。

技の上達には、脳と身体とその連携プレイが重要であるようなので、脳も身体も精進しなければならないことになる。

参考文献  『そろそろ結論』養老猛