【第276回】 片手取りも両手を遣う

合気道は取りと受けを交互に代わりながら技を練磨していく。取りは攻撃法で、徒手、得物の取りがあるが、その内の徒手には片手取り、両手取り、諸手取り、正面打ち、横面打ち、突き、肩取り等などの基本の取りがある。

入門して最初にやる取りは、相半身の片手取りであろう。これは西洋の握手の形でもあり、バランスがとれた自然の形であるから、お互いあまり気負いもなく、動きやすく、技も掛けやすいといえる。また、相半身で片手を取っても取らせても、初心者の場合、基本的にはその手で技を掛け、掛けられるので、反対側の手を意識して遣わなくとも何とか格好がつくものである。

だから相半身の片手取りを最初にやるのだろうし、それは理に適っていると考える。もちろん、相半身の片手取りも、上の段階の稽古になると、想像以上に難しいものである。

次の取りは、逆半身からの片手取りであろう。これは相手が素直に受けを取ってくれれば問題ないが、本当はそれほど容易にできるものではないはずである。本来なら両手取りを身につけてからでないとできないものと考えるが、相半身の片手取りから直ぐに両手取りをやるのも難しいから、ある程度体が動き、技(技の形)を覚えてからやるしかないだろう。

上級者になっても、技を思うようには掛けられないものだ。うまくいかないという結論は出せるが、なぜうまくいかなかったのかという理由が見つけられないものである。一般的、そして基本的には、力不足、稽古不足であろう。それを自覚すれば仕方がないと諦めもつくだろうが、力もあるし、稽古もしているのにできないと悩むこともあろう。

合気道は武道であり、自分の体を最大限に活用し、また、自分の体のすべてが機能するように、遣っていかなければならない。従って、あるものを活用しないのはもったいないだけでなく、その活用されない部位に失礼だし、また、技を掛けてもうまくいかないだけでなく、体を壊すことにもなりかねない。

片手取りに話をもどすが、この基本中の基本である片手取りがうまくいかないのは残念だし、不思議だろう。が、それには必ず上手くいかない理由、原因があるのである。

その典型的な理由は、片手取りで片手しか意識しないで体を遣っていることである。これでは、反対側の片方の手は遊んでいることになる。片手取りでも、正面打ちでも、両手を遣わなければならないのである。

両手を遣うということは、右左の手を陰陽に交互に遣うことと、ナンバの足と手を連動して遣うことである。陽から陰に変わり、待機していた陰が陽に変わることである。例えば、片手取りの呼吸法で、持たせた手だけを遣っても駄目で、持たれていない反対側の手も連動して遣うようにしなければならない。片手取りでも、両手を遣い、手は両方とも足と連動して動いていなければならないのである。

片手取りで両手が遣えるようになれば、一見片方の手しか遣わないように見える正面打ち等でも、両手を遣えるようになるだろう。そこで、両手取りをやれば、両手を陰陽で遣う意味をあらためて自覚できるはずである。そして、両手が遣えるようになれば、突きや太刀取りもできるようになっていくはずと考える。