【第274回】 まっすぐな指と手

合気道の技は、宇宙の法則に則っているはずなので、非常に繊細で微妙なものである。従って、その繊細な技をつかう体の遣い方も、繊細であるべきだし、また、その体自体もそれに応えるような体でなくてはならないはずである。

初心者のうちは、技を遣うに当たって、どんな手であっても、どんな遣い方をしても、あまり関係ないし関心もないだろう。手はあればいいし、強い力が出せればいいぐらいにしか考えてないだろう。

しかし、段が上がってくると、相対稽古の相手もそれ相応に対処してくるので、ちょっとやそっとでは技は効かなくなってくるし、相手が少しでも力を入れると、動かせなくなってしまったりするのである。

技が効かない大抵の場合、相手は意地悪しているわけでも、挑戦しているわけでもない。おそらく受けの相手は無意識のうちに、これは一生懸命やらないといけない相手だと判断して力を入れてきただろうから、意識され、尊敬されたわけでもあるし、有難いことである。その敬意に対して応えなければならないはずだが、それが中々できないのが現実だろう。

技がうまく掛からないで揉み合っているのを見ると、必ず原因がある。力不足という原因が基本的にはあるだろうが、それ以外にもいろいろある。その典型的な例のひとつに、合気の体がまだできてないことがあるわけだが、その内のひとつに、指や手や腕がまっすぐになってないというのがある。

技を掛ける場合、指はまっすぐに伸びていなければならない。内側に湾曲していると、指先に力が集中できないから、手でしっかり掴むことも、すばやく捌くこともできなくなる。まっすぐでなく湾曲しているということは、力がそこを通っていないということである。

指が湾曲していると、力が指先に通らないので、手首で操作しようとする。そして手首が内側に湾曲する。わかり易い例として、片手取りの転換法や片手取りの呼吸法がある。いわゆる手を「しゃくる」のである。本人は力を出しているつもりであるが、実際には、力は湾曲して折れ曲がっている手首の辺りまでしか来ないので、大した力が出ないことになってしまう。

五本の指はまっすぐに伸びなければならない。(写真) そして手の甲と小手(外側)と上腕が一直線になるように遣わなければならない。これは、手刀であるから、湾曲したり折れ曲がっていては、なまくらでものの役に立たないことになる。手首のところで湾曲した手の形は「糞にぎり」などと言われ、剣道などでも忌み嫌われるものである。



まっすぐな指をつくるのは容易ではないようだ。注意されても、中々できないものである。やはり、地道に鍛錬するほかないだろう。
まず、指を伸ばすためには曲げるのがいい。第271回の指関節で書いたように、指の関節が鋭角になるように鍛え、そして、息に合わせて伸ばすのである。次に、下腹の呼吸の圧で、指を思い切り開く練習をする。吸って、吐いて、指をできるだけ開くようにするのである。これを毎日、少しずつやれば指は柔軟になり伸び、手先に力が集中するようになる。

指がまっすぐになり、指先に力が集まるようになると、手の平と甲、小手が真っすぐになり、手(腕)が真っすぐになってくるはずである。あとは、いろいろな技で、このまっすぐになった手を湾曲したり折れ曲がったりしないように、手刀として遣って鍛錬していけばいい。