【第269回】 脚のあおり

今回は、人体を支えている「あし」について書いてみたいと思う。

人間の「あし」には「足」「脚」という語があるようだが、明確にどこからどこまでが「足」で、どこからどこまでが「脚」なのか明確な定義がないようである。そこで、ここでは骨盤から下の部分を「脚」といい、足首からつま先まで「足」と言う事にする。つまり「足」は「脚」に含まれるわけである。

技を練磨しながら精進する合気道の鍛錬稽古では、脚が大事であるというより、技は脚で掛けるといってもよいだろう。初心者のうちは技の形を覚えるのに集中するので、どうしても手が主体になるが、技を練磨する上級者になると、脚を主体的につかわなければならなくなるはずである。

第252回の「足首のあおり」で、足と足首のあおりの重要性を書いたが、今回はさらに、その上部を含めた「脚のあおり」を書いてみる。

合気道の基本歩法は「撞木」などといわれるものである。前の踵が後足の中間点である土踏まずに向く、十字の歩法である。

これをナンバでつかうのだが、脚を突っ張ったまま歩いたのでは出来そこないのロボットの歩きになってしまう。技につかえるように歩くには、「脚のあおり」が不可欠である。

「撞木」でナンバで歩くと、初めは怖いお兄さんのように「よたって」歩くものだ。それは、「撞木」から「撞木」に直線的に歩くからである。これでは格好がよくないだけでなく、技としても使えない。なぜならば、体の変更が容易でないことと、腹が脚の真上に乗らないので下腹に力が溜まらず、下腹の力が技に使えないからである。

このためには「脚のあおり」が必要になる。つまり、第252回で書いた「足底のあおり」から始めて、次に「足首のあおり」をする。

次に「膝のあおり」をし、膝を内側にあおり、前足のつま先方向に向ける、腹の前足の角度に対して45度ぐらい近づき、だいぶ腹が前脚に近づくが、まだ完全には乗らない。最後に「腰をあおる」と、完全に下腹が脚の上に乗り、臍がつま先と同じ方向を向くことになる。これで「撞木」が切れ目なく円く出来たことになる。

つまり、「脚のあおり」は、「足(底)のあおり」「足首のあおり」「膝のあおり」「腰のあおり」の4つで構成され、この4つのあおりによって、腹の位置が90度変更することが出来るようになるのである。この内のひとつのあおりが欠けても、うまくいかないはずであるし、そこの部位を痛めることになろう。人間の体は、実に摩訶不思議で精妙にできているものだ。

なお、「脚のあおり」ができるように、はじめは意識して下から上への部位をあおる稽古をするのがよいだろう。無意識で脚があおれるようになれば、上の腰からあおっていくことができるようになる。

これらのあおりをうまく使うためには、足、足首、膝、腰のカスをとって、柔軟にしなければならない。そこの部位が硬かったり、使い方を誤れば、そこを痛めることになろう。足首や膝や腰を痛めたりするのは、恐らくそこのあおりを省略して使わないで動くことに原因があるはずである。

しかし、「脚のあおり」のポイントは、もうひとつある。そこが脆弱であったり、そこをうまく使えないと「脚のあおり」がスムーズにいかないのである。それは「足の親指」であるが、これは次回に書くことにする。