【第264回】赤玉白玉と技

合気は十字であるという。だから、合気道を十字道ともいうという。十字とは、「武産合気」によれば、縦の天の呼吸、即ち日月の呼吸と、横の地の呼吸、即ち潮の干満の呼吸であり、合気道の技はこの日月の息と地の息を合わせて、生み出していかなければならないのだ。

前回の「天の呼吸と技」で、「天の呼吸との交流なくして地動かず」「天の呼吸により地も呼吸する」ということを取り上げ、まず「天の呼吸」について書いたが、今回は「地の呼吸」について書いてみる。

地の呼吸を、開祖は潮の干満といわれ、それを塩盈珠(しおみつのたま)、塩涸珠(しおひるのたま)、又は赤玉、白玉と言われている。そしてこの赤玉、白玉を腹中に胎蔵して技を鍛錬していかなければならないという。では、この潮の干満、赤玉、白玉をどう捉え、どのように技で扱っていけばよいのか、考えなければならないことになる。

重心を地に落とすと、自分の体重を感じると同時に、体が水で満ちているように重く感じる。武術では、人の体とは革袋に水がつまった水袋であるとも言われているそうだから、そう感じるのも不思議ではないだろう。この水袋の体を十字々々で反(かえ)したり、入り身や転換などすると、まさしく自分の体が水で満ちていると感じると同時に、自分の体が恰も水の中で遊泳しているかのように、空気と結びついて粘っこくて重い感覚になる。

この粘っこく重く、あたかも水の中にいるような感覚をなんとか身に着けたいと思うなら、自主稽古で杖を振るのがよいだろう。突いたり打ったりを陰陽、十字に反しながら、赤玉、白玉を腹中に胎蔵していると思いながら、練習するのである。手足と体が連動して動くようにするのである。水袋の勢いで、体が陰陽に動き、あたかも潮が満ちたり干いたりする感覚が得られるはずである。毎日、少しづつでも稽古すれば、その内に感覚が掴めるだろう。

また、転換、入り身転換の一人稽古もよい。水袋が左右陰陽に動く感覚を掴むことができるだろう。

技は潮が満ちたり干くように掛けなければならないが、そのためには赤玉、白玉を胎蔵する体をつくらなければならないし、そして、その体を潮の干満の息に合わせてつかうようにしなければならない。体のカスを取って柔軟な体にし、その体を自分の呼吸によって、潮の干満(赤玉と白玉)の拍子に合わせて遣うのである。

天の呼吸の縦に対して、地の呼吸と動きとは横である。技は縦だけでは成立せず、横があってはじめて技になるはずである。もちろん、横だけでもだめである。しかし、初心者はまず横の動作からはじめてしまう傾向にある。典型的なのは、足が居着いたまま手をつかうことである。縦がしっかりしていないので、横の手も弱く、技が効かないことになる。

例えば、「二教裏」の小手回しが効かない理由のひとつは、肩や胸を通して腹や腰から来る横の力をつかわず、決めようとばかりに手で下に落としてしまうからである。「二教裏」も天の呼吸に合わせ、体と息を縦につかったら、次に塩盈珠、塩涸珠になったつもりで体と気持を左右につかい、相手を自分の中に取り込み、そこで今度は下に落として決めるのである。これは相手を二教で決めるということではなく、天の息と潮の干満に自分の息と体を合わせて動いた結果、相手が倒れているということにならなければならない。