【第263回】 社会への恩返し

60歳や65歳になると、仕事から引退するか、第一線から退くことになる。もちろん例外は沢山ある。80、90歳まで働き続ける人もいるだろうし、死ぬまで働く人もいるだろう。今回のテーマには、こちらのグループは関係ないことになる。なぜならば、このグループはまだ社会に貢献していて、今回ここで問題にしようとしている「社会への恩返し」を、引き続き行なっていることになるからである。

仕事から引退すると、初めのうちは誰でもうれしいし、それまで夢見てきたことを嬉々としてやり始めるようである。たとえば、旅行したり、写真を取り歩いたり、趣味の勉強をしたりする。しかし、半年もするとそのやりたかったことをやり切ってしまうか、飽きてしまってやることがなくなって、結局、奥さんにくっついて歩いく「濡れ落ち葉」になってしまうことが多いようである。

年金などの収入や貯金が少なければ、まだアルバイトなどして働かなければならないが、余裕があればそれも必要ない。時間もあるし、健康でエネルギーもあるのに、やることがないというのは、本人だけでなく、社会的にもったいない話である。

人は、学校だけでなく社会からいろいろ教えてもらったり、恩恵を受けたはずである。また、人が生まれて生きていることには、意味があるはずである。合気道の教えでは、人は各々使命を持っているという。人だけではなく、宇宙にある万有万物には使命があり、その各々の役割を果たすべくつくられ、生かされているという。勿論、仕事を引退してもその使命はあるはずである。

人間は、先人からのものを受け継ぎ、さらにそれを改善し、後進に受け渡すもののようだ。新しい発見や発明をして、後の人に継承する人もいるだろうし、伝統や技術を伝える人もいるだろう。もちろん、子供を育て上げる人もいる。

若い内は考えもしなかったが、年を取ってくると、自分のやるべきこと、つまり自分の使命はこれだということを悟ってくるようだ。そして、これまで生きてきたのはこのためであったのかと、驚かされるものだ。ほとんどすべてのこれまでの出来事は、この使命と思えるものに結びつくし、死んでもおかしくなかった危機を何度も乗り越えてきたのも、この使命を果たすために生かされたのだったのかと思えるのである。

何かが使命を果たすべく期待し、支援してくれている。この何かは、合気道では、宇宙であり、宇宙の意志であるとする。宇宙が宇宙建国、地上楽園を建設するために、万有万物に使命を与えているとするのである。

おそらくこの宇宙の意志になる使命を果たしていくことが、万有万物のためになるだろうし、目に見える顕界や社会の為にもなるはずである。だから、社会のために恩返ししようとするのもいいだろうが、宇宙の意志の使命を果たしていくのも「社会への恩返し」のはずであると考える。

60,70歳で呆けてなどいられない。自分の使命に気付き、その使命を果たすべく頑張りたいものである。その頑張る姿が若者に生きる意欲を与え、そして、社会への大きな恩返しにもなるのではないかと考えている。