【第242回】 円と合気技

合気の技は円である、といわれる。以前に書いたように、合気の技は「縦の円」と「横の円」との組み合わせでできているはずである。また、「縦の円」と「横の円」は関節の数だけあるだろうから、これらの円の組み合わせはけっこう多く複雑である。開祖は、合気の技は「円の動きのめぐり合わせ」である、と言われている。(合気道新聞『円の本義』) この円の動きの組み合わせで技ができていることもあるが、円には大事なことがあるようである。

円とは、分かっているようで、よくよく考えてみると分かりにくいものである。目に見えるものもあるが、見えないものもあるようだし、合気道での円はまたちょっと違った概念があるようだからである。

合気道の稽古中に、円を説明するのに紙に〇を書いて、これが円ですなどと説明しなくとも、円とは〇であると誰でもわかるものだが、合気道での円は、日常的な意味での円とはいささか異なるようである。

まず合気道での円とは十字ということであろう。以前書いたように、手先でも、例えば手の平を縦(垂直)と横(水平)に反(かえ)していけば円になる。完全に〇でなくて、十字に反しての〇であり、多くの場合はその〇の一部であったり、一見すると直線に見えるような〇である。これが であろう。

次に、紙に書いた円(〇)は有限であるが、合気道の円は無限と考えなければならないようだ。無限であるため、何も制限がないから自由自在ということになる。そうすると、円の動きの技も自由自在ということになるので、技は自由に無制限にでてくるようになるというのも理解できる。

また、円の動きのめぐり合わせによる技の動きを体で感応すれば、そこから技を生み出す仕組みの要素が生じてくるという。これは、私がいう技要因とか技要素というものであるはずであり、技の構成要因ということであろう。つまり、縦横の円の動きの組み合わせがうまくできてはじめて、技要因があらわれてくるということである。

最後に、円は宇宙の万物を結びつけ、生成化育するという。従って、相対する相手も円によって自分の円に取り込み、吸収してしまうことができるのである。例えば、両手取りからの小手返し(内回り)を掛けるとき、まず、相手の肩を中心にした、相手と自分と共通する円で相手の手を導き、そして相手の手を手鏡の要領で取った時点から、今度は自分の腰腹を支点とした自分の円に相手を取り込んでしまう。

どの技を掛ける場合にも、初め自分と相手の共通の円を描くように動き、そして自分の円に相手を吸収するのが、合気道の鉄則であると思う。つまり、円ではじまり、円で収めるのである。

この他にも、合気道では息を円くつかうとか、心を円く体三面にするなど、息も心も円く遣わなければならないとされているし、円は非常に重要であるようだ。

参考文献  合気道新聞第4号『円の本義』