【第235回】 まず陰(いん)で導け

相対稽古で相手に技を掛けている際、うまくかからず、相手に頑張られたり、相手が予定通り倒れてくれない場合がある。何度も繰り返してやっても同じ結果である。

倒れないのは、相手が頑張ったり、意地悪をしているわけではない。技を掛ける側に問題があるだけである。受けはほとんどの人は、素直に受けを取ろうとしているはずである。喧嘩や争いをしに道場にきているわけではなく、技を通して技を掛け、また受けを取りながら技を練磨し、合気道の上達を心掛け、合気道が目指す目標に近づこうとしているのである。

相手が頑張ってしまうのは、相手が受けを取ろうにも取れない技の掛け方をしているからといえよう。力で押しこんだり、腕を体に押し付けたり、しっかり抑えている手を無理に切り離してしまったり、受けの正面で技を掛けようとするため受けが動けず居着いてしまう等、受身を取ろうにもとれないのである。

合気道の技は、基本的に手で掛ける。相手との接点を遣って、技を掛けることになる。例えば、逆半身の片手取り四方投げの右半身の場合、右手を相手に取らせるが、最初から右手を動かして技をかけると、相手に抑えられて動けなくなるか、または相手がせっかく持ってくれている手を切り離してしまい、技を遣えなくなってしまう。これも、相手に受けを取れなくしてしまうことになる。

受けの相手が取っている前の手を陽とし、反対側の手を陰とすると、技は陽の手から掛けても掛からない。陽の手を陽に働かすためには、まず陰の手を遣わなければならない。

陽の前の手は相手の手で掴まれているから、言ってみれば、相手とは五分五分の状態である。これを動かそうとしても、よほど力の差がなければ難しいはずである。この均衡を破らなければならないが、それができるのが陰の側の手である。

陰というのは、陽に変わる準備段階であって、陽のエネルギーで満ち溢れているわけである。季節も陰の冬は夏(陽)に向けてのエネルギーを最も多く溜めているし、植物や草木の芽も冬に最も多くエネルギーを貯蔵するといわれている。陰には陽以上のエネルギー(力)があるわけである。この陰の力を遣わない手はないだろう。

片手取り四方投げの場合は、陽の手を動かさず、陰の手(肩、腰を含む)から動かし、陽の手を一度陰にして、それから陽の手として遣うようにする。正面打ち入り身投げ(右半身)なら、相手と手が接したところで陽の手を動かすのではなく、陰の手を陽に反してから、陽の手を陰にしてからまた陽にして遣うのである。

これを開祖は道歌で、「右手をば陽にあらわし 左手は陰にかえして 相手みちびけ」と詠われている。

合気道の技は、両手を陰陽に変えながら遣っていかなければならない。片手が遣われずに死んでいれば、手も体も陰陽に遣えなくなるから、技は効かないことになる。

両手を陰陽で遣えるためには、両手の手先と腰腹がしっかり結んでいなければ遣えない。手だけの手振り、手捌きになってしまうと、腰腹の力が手先に伝わらないし、陰陽にならず、相手と接している部位だけを遣う陽陽となってしまうことになる。

陽から動かさず、陽陽にならないよう、まず陰で導かなければならない。