【第235回】 「縦の円」の手をつくる

前回の「合気道の思想と技」の『円転の理』(第234回)で書いたように、技は、地球が太陽のまわりを公転しながら自転しているように、「縦の円」(自転)は「横の円」(公転)の軌道をまわりながら動いていかなければならない。このどちらかの円が上手くまわらなければ技はうまく掛からない。うまくかからないということは、技が極まらず、自分も相手も納得できないということである。

「横の円」は、いわゆる技の形とも言える軌跡なので、誰でも容易に気がつき、その動きはできるようだが、「縦の円」の重要性にはなかなか気がつかないようであり、その意識した稽古はほとんどされていないように見える。

「縦の円」は大事である。大げさにいえば、「横の円」だけでは技はかからないが、「縦の円」だけでも技が掛かると言えるぐらい、「縦の円」は重要と言えるのである。

この「縦の円」が理に即し、無駄なく美しく、そして強靱でなければ技は上手く遣えない。「縦の円」というのは、腕の手先の方向に向けてまわす円である。ちなみに「横の円」は、それと十字ともいえる、腕の側面方向に動く円である。「縦の円」「横の円」はいずれも私の造語であるから、辞書にはないはずである。

「縦の円」は、指、手首、肘、肩、胸鎖関節を支点につくれる。ここを支点にして、くるくる円くまわすことができるのである。円くまわすということは、そこが縦と横の十字になるということでもある。十字になるから円である。これが開祖が言われる円に十のである。

「縦の円」を遣う支点と典型的な技は、次のようなものがあろう。

これらは、分かりやすく、また実感しやすいと思われる典型的な例であるが、実際には、すべての技において、これらの指、手首、肘、肩、胸鎖関節のすべてで縦の円が連動して遣われているはずである。ただ、意識と力が相対的に主に集中している部位ということである。

指、手首、肘、肩、胸鎖関節を支点とする円は、すべての支点の円を連動して遣うのが効率的であるが、鍛える場合は、その各支点を個別に鍛えた方がよい。言い変えると、指、手首、肘、肩、胸鎖関節の各支点で「縦の円」がきれいにつくれて、しかも多少の強い力にも耐えられる円をつくらなければならない。

その「縦の円」をつくる鍛錬法の一つ目は、前述の技などを通して身につけることであり、これが鍛錬の主流とならなければならない。「縦の円」を意識した技の練磨をしていくことである。

二つ目は、自主運動で指、手首、肘、肩、胸鎖関節を支点にして右と左にぐるぐる回す練習をすることである。縦横十字にしながら円く回すのである。慣れないうちはいびつな円しかできないが、カスが取れてくるとだんだん円くなってくるはずだ。

三つ目は、負荷を掛けて、遠心力と求心力で「縦の円」をつくる方法である。それは鍛錬棒で手首、肘、肩、胸鎖関節を支点に円く縦に右回り左回りと回すのである。残念ながら、この方法では指だけを独立して鍛えることはできないが、手首から胸鎖関節の鍛錬で同時に鍛えられているはずである。