【第229回】 相手の内に入る

相対稽古で相手に技をかけるとき、まず相手と一つにならなければならない。相手と一体化しなければ1+1=2となり、お互い思うことは異なるので、争いになってしまう。二人が一体化できれば、一人として自由に動けることになるので、技も掛かることになる。しかし、この相手との一体化の重要性に気付かないか、気付いてもどうしてよいか分からず、一体化出来ない人が多いようだ。

相手と一体化することを、相手と結ぶとか合気するというのであろう。合気道は引力の養成ともいわれるように、引力で相手をくっつけてしまうのである。くっつけて離さないので一体化できるわけである。それも、相手と接した瞬間に一体化できなければ意味がない。

相手が掴んでこようが、打ってこようが、接した瞬間に相手と一体化するためには、まず相手の内に入らなければならない。入り身することである。入り身というのは、身(体)を入れることであるが、入り身転換法とか、入り身投げで、相手の死角に入ることだけではない。

入り身とは、自分の身(体)を相手の領域内に入れることでもあるだろう。合気道は入り身と転換が重要だというのだから、入り身投げ以外の技でも、入り身を行われなければいけないはずである。

例えば、坐技呼吸法でも、入り身がないと出来ないはずである。つまり、相手に両手を抑えさせたら、腰からの力を相手が抑えている手を通して相手の領域の内まで入る(出す)のである。腹が相手に向かって入る(出る)のである。ここで腹が出ないで手だけが出ると、入り身にならずに入り手となり、大した力は出てこないことになる。

入り身は身を進めることであり、四方投げでも、一教でもどんな技でも、またいかなる取り(正面打ち、片手取り、肩取りなどの攻撃法)でも、不可欠であるはずだ。入り身をするから、相手から抗力が返ってくるのである。

相手の内に入り身で入ったらば、相手からの抗力が返ってくるから、次はこちらの内に相手を取りこんでしまうのである。自分の領域に入れてしまうのである。一番いい例は、先ほどの坐技呼吸法であろう。腹を相手にぶつけるように、身を入れて相手の領域に(ちょっと)入って、今度は腹を横に遣うと螺旋で相手を自分の領域に取りこむことができる。このとき相手は自分と一体化しているので、自分の体の一部のようなものとなるからくっついてしまい、重さがなくなるはずである。もちろん、入り身投げでも、一教でも、天地投げでも、すべては相手の内に入り、そしてこちらの内(領域)に取り込んで技をかけていかなければならないはずである。

技はまず相手の内に入らなければならない。そして、こちらの内に取りこんでしまわなければならない。