【第229回】 人は小宇宙

開祖は、「合気道とは、

であり、真の武である合気道は、宇宙のいとなみが自己のうちにあるのを観得することである」と言われている。
だから、宇宙が分からなければ、合気道は分からないということになるだろう。

また開祖は「合気道の極意とは、己を宇宙の動きと調和させ、己を宇宙そのものと一致させることにある。合気道の極意を会得した者は、宇宙がその腹中にあり『我は即ち宇宙』なのである。」と言われ、そして、「植芝の合気道には時間も空間もない、宇宙そのままがあるだけなのです。これを勝速日といいます。」と言われているのである。このように、合気道は宇宙を対象にし、己を宇宙に一致させる武道であるといわれるのである。

合気道は技の練磨で精進するものだから「宇宙の技」を練磨していかなければならないことになる。「宇宙の技」を身につけていくことによって、宇宙の動きと調和し、そして宇宙と一致し、自らも宇宙になることであるようだ。しからば、宇宙とは何か、宇宙を理解することはできるのか、宇宙と一致できるのか、そのためにはどうすればいいのか、ということが問題になろう。

しかしまた、人は宇宙であるとも言われる。人は小宇宙であるとも云われているのである。開祖も「宇宙と己れとは同じと言うことを知らなければならない」と言われている。また、「自分の身体を眺めて頂ければ、その悟りにおいて、ことごとく神世からの歴史が、ことごとく血の中に流れているんですよ。身の内にあるんです。数百億万年の昔も未来もやな、現在その自己の身の内に、一代の内に営んでるんや。」とも言われているのである。

そうだとすれば、人が小宇宙であるとはどういう意味なのか、どうすれば大宇宙と調和できるのかを、開祖の言われることから考えてみたいと思う。

中国の漢の哲学書『淮南子』(えなんじ)』では、宇宙とは時空のことで、宇宙の宇とは空間で、宙は時間という。
何もない虚空に忽然と現れたポチ、一元が魂と魄の本の二元を生みだし、大宇宙を営み、人を創造し命を与えたという。大宇宙も人も、その一元から生み出された同胞ということになるだろう。だから、歴史と規模から見て、宇宙と人はつながっている大宇宙と小宇宙ということになろう。

大宇宙にも人の小宇宙にも、時間と空間がある。137億万年に創造した大宇宙に比べ、精々数百万年前に出現した小宇宙(人)は非常に若いが、この小宇宙である人は137億万年からの大宇宙と繋がっており、その過去の歴史が収められているはずである。

つまり、人は137億万年のデータを保存しているわけである。これが、開祖がすべてが一元の神と繋がっているといわれていることであろう。そして、この両宇宙は、共に過去と現在を共有するだけではなく、未来の楽天を目指し生成化育を続けているのである。人は未来にも生きていることになるから、人は過去と現在と未来の「宙」を、大宇宙と同じように包含していることになるし、また自由で無限の心を持っているわけだから、大宇宙と共に上下東西南北の「宇」も有していることになる。

「人は宇宙の精妙をことごとく受け止めている引力の持ち主であり、人は大地の呼吸とともに天の呼吸を受け、その息をことごとく自己の息にして同化し、魂魄を正しく整えているのである。すなわち人は全宇宙を受け止める経綸の主体である」といわれる。(『合気真髄』)つまり、この主体こそ小宇宙の人であり、大宇宙の引力と繋がっているわけである。

また、「五体は宇宙の創造した凝体身魂であるから、宇宙の妙精を吸収し、宇宙と同化しているわけである。」(『合気真髄』) さらに、「人というのは、造化器官であることを知り、全大宇宙と己れとは同じということを知らなくてはいけない。」とも開祖は言われるのである。(『合気真髄』)人の五体は、宇宙の意志を表現する造化器官であるということだ。

このようなことから、人は、もう一つの小宇宙、ミクロコスモスと言われてもいいだろう。しかし、すべての人がはじめから完全な小宇宙ではないだろう。もしそうなら、合気道でもすべての人が名人達人になっているはずである。

人は立派な小宇宙、宇宙となるべく修練していかなければならない。自分の中に宇宙を見出し、宇宙の条理を身につけていかなければならないのだろう。そのために我々は合気道を修行しているはずである。