【第222回】 真空と真空の気

時が経つにつれて、人類は今まで分からなかったことが少しずつ分かってくる。宇宙のことも、まだまだほとんどのことが分かっていないと言えるが、それでも少しずつ解明されてきているようだ。

新たに分かってきたことのひとつが「真空」である。これまで宇宙は真空であり、空虚な空間であると思われていたが、最近では、真空は、空虚な空間とはまったく異なり、エネルギーで満ちており、その中の星や太陽と相互作用を及ぼしているという。例えば、地球が太陽の周りをエネルギーを放出しながらも軌道を乱さずに回り続けているのも、地球が真空からエネルギーを吸収しているためだという。もし真空にエネルギーがなければ、地球はエネルギーを消耗するだけで、太陽にだんだん近づいてしまうことになるはずだという。

ミクロの宇宙での原子の世界でも、原子核を周回する電子の軌道の安定性も、地球と太陽と同じように真空との相互作用によって維持されていると言われる。

また、「真空」は宇宙の基本要素である粒子を生み、そして最終的にそこへ還っていく子宮であり墓場であるという。(『生ける宇宙』アーヴァン・ラズロ著)

これを、開祖はすでに、「真空の気は宇宙に充満しています。これは宇宙の万物を生み出す根源であります。」(『合気道新聞3号』)と言われていたのであるから、改めて恐れ入るだけである。

合気道では、この「真空」がわからなければならないという。つまり、「真空と空のむすびのなかりせば合気の道は知るよしもなし」と道歌にあるからである。また、「身の軽さ、早業は真空の気をもってせねばならない。」とも言われる。それ故「真空」「真空の気」を解明し、それを技にどう結び付けるのかを考えなければならない。

「真空」「真空の気」を考える場合、それと対照となるのは「空の気」であるが、「空の気」は重い力を持ち、引力を与える縄であると言われている。私はまず、「空の気」を、モノとモノが引き合う引力と考える。また、「真空の気」を「真空」にあるエネルギー(粒子、ダークマター、ダークエネルギー)と考えたい。

しかし、これを技にどう生かさなければならないかということである。技を遣う場合、まず、技を掛けるという意思がはたらかなければならない。次に、相手と結ばなければならない。相手と結んで一つになることである。相手とは万有引力が働くはずであるから、重い力の空の気が働くはずである。しかし、いつまでもくっついていては、団子状態で技にならない。技になるためには、この重い空の気を解脱して自由になるべく、真空の気と結ばなければならないことになる。
開祖はこれを「本体は物の気で働く。空の気は引力を与える縄。自由はこの重い空の気を解脱せねばならない。これを解脱して真空の気に結べば技がでる。」といわれている。

例えば、相手が剣や手刀で打ち込んでくるとした場合、まず、逃げたりせず、心を相手と結ばなければならない。そして、相手に打たせて、相手の剣や手刀と自分の空間的密度が十分に濃縮された瞬間に、その結んだ線を外し、真空の気と結び、相手の引力(空の気)を完全に断ち切り、相手の死角に入ってしまうようなことであろう。

しかし、この重い空の気からの解脱は容易ではない。気持ちが相手の重い空の気に残ってしまうからである。解脱できないと、相手の剣や手刀で切られてしまうことになる。

解脱するには心の持ちようと息遣いが大事であるだろう。相手にとらわれない、強く自由な心を持たなければならない。そして、「真空の気」を一杯に吸い込んで五体を満たさなければならない。そうすれば、五体はその働きを活発にし、千変万化神変の働きをすることが出来るようになり、宇宙と一体となりやすくなるということであろう。

引力となる「空の気」と真空のエネルギーの「真空の気」を取り入れた稽古をしていかなければならないだろう。

参考文献『合気真髄』