【第217回】 能力開発

人は生まれた時から何かの才能はあるのだが、それぞれ異なる才能を持っている。全ての点で他人に勝る才能を持っている人は、世の中にはいない。何かに才能があると、他の分野は他に劣るもののようで、例えば才能のある人は、こつこつ努力をすることが苦手のようだ。だから、人間社会は平和なのだろう。もし才能のある人が、すべてその才能なみに努力したら、才能あるひと達だらけの社会になってしまい、才能のない人達の活躍する場はないことになるだろう。

合気道でも、体力に恵まれて運動神経がよい人は、意外と稽古が続かないようだし、体力や運動神経が劣っている人の方がかえって長続きしているように思う。

最近の科学では、遺伝子を調べることによって、その人の才能の99%が分かるようになったといわれる。小さい内に子供の才能がわかれば、その才能を集中的に伸ばしてやりたくなるのが親であろうが、それが子供にとって幸せかどうかは問題であろう。また、国や組織が遺伝子を調べて、才能のある子供たちだけを集めて、国や組織のために働かせることになりはしないかと心配である。

才能はあるに越したことはないが、才能にだけに頼るのは意味がないだろう。合気道修行での技の練磨でも、上達は才能だけによらない。才能と努力と運の総和であると考える。才能はその内の一つであるし、才能があまりなくても、努力をすれば少ない才能をカバーできるものである。ましてや運となると、才能とは関係がない。才能がいくらあっても、運が悪ければ上達は出来ない。例えば、よい指導者に巡り合わなかった場合などである。

われわれ凡人は、とりわけ優れた才能をもっているわけではないが、その少ない才能を駆使したり、それに別な小さな才能をドッキングしたりして、仕事をしたり稽古をしている。時には、才能があると思われる人より、そんな凡人が何故、と思われるような仕事をしている。

才能がないと思われている凡人でも、才能を開花させることができるという。それはよい遺伝子をONにすればよいという。筑波大の村上和雄名誉教授は、遺伝子をONにする方法は、心のあり方によるという。つまり、陽気な心ではよい遺伝子がONになり、ネガティブな心をもつと、悪い遺伝子がONになってしまうという。特に、よい遺伝子をONにするのは、笑うことであるともいう。

この考えは正しいと思えるし、面白いが、武道の修練でどうするかということである。よい遺伝子をONにして才能を開花するためといって、稽古中にケラケラ笑うことはおかしいし、あまり陽気な心だけで稽古したのでは武道の厳しい稽古にならないだろう。

才能を開花するためには、遺伝子をONにする。そのためには笑い、陽気な心をもたなければならないとして、これを武道の修練とどう結び付けるかである。

稽古で笑うこととは、自分の愚かさ加減を笑えばいい。自分の稽古をもう一人の自分から見てみると、出来の悪さや愚かさに笑わずにはいられなくなるはずである。これで稽古に関係のある遺伝子がONになるはずである。稽古相手や他人を笑っても、自分の進歩上達には結びつかないだろう。遺伝子はONにならず、才能も開花しないはずである。

次に、陽気な心で稽古をするということであるが、これは浮ついた心ということではない。陽気な心とは、ネガティブの反対のポジティブな心ということだろう。稽古でのポジティブな心は、先に可能性と希望があるということだろう。今は一所懸命やって出来なくとも、明日はできる、この次は出来るだろうということである。その内に、摩訶不思議な技が遣えるようになると夢を持つことである。そして、自分を信じることである。

自分を笑って、ポジティブな稽古を続ければ、眠っていた遺伝子がどんどん起きだし、自分の能力開発ができるのではないだろうか。