【第199回】 胴体

合気道は主に技の鍛錬をして精進していく。相対稽古で、相手に技が少しでも上手くかかるようにするわけである。相手が素直に受けを取ってくれている初心者のうちは、技が上手くかかるものだと思ったり、又は上手くかかったかどうか分からず、余り気にしないだろう。だが、高段者になれば、相手が構えたり、それなりの技を期待されたりして、次第に難しくなるようである。つまり、相手もなかなか納得してくれなくなるし、自分も納得できなくなるのである。

合気道の技は、だいたい手で掛けるが、相手が手で掴んだり打ってくるのを、同様に自分の手の力で制しようとしても、相手は納得してくれないものである。たとえ相手を強い手の力で抑えたとしても、それはこちらの力が少し強いだけの話であって、もっと力をつけて今度はやっつけてやろうと思うのではないか。同質の力でやり合うのは、争いになってしまうものである。

合気道での力も同じで、相手と同質のものでやれば争いになるだろう。だが、異質のものでやれば争いにはならないはずである。争いにならないためには、相手との接点の手から出る力、つまり腕力とは異質の力でやらなければならないことになる。

異質の力にはいろいろあるだろう。腕力を腕の力と定義すれば、腕力は肩から手先までの間の腕で出される力と考えていいだろう。これに対する異質な力は、そこと異質のところから出るはずである。それは肩の先で力が出るところの肩甲骨であろう。つま、肩甲骨からの力で相手の腕力を制し、技を掛けることができれば、相手はその異質の力に納得するはずである。胸鎖関節を支点に、肩を貫いて、腕を胸鎖関節から手先まで一本に遣うのである。

肩甲骨から出る力より、量も質もさらに上質な力が出せる部位がある。「胴体」である。首から上と四肢を除いた体幹である。この「胴体」の力が手先に伝われば、腕力とは異質で、しかも膨大な力が出せることになるはずである。もちろん、そのためには「胴体」が合気の体になっていなければ上手く働いてくれない。

「胴体」が合気の体であるためには、柔軟で、「胴体」の重さが胴体の下の腰にストンと集まらなければならないだろう。とりわけ上部の肩が突っ張らないことである。「胴体」が柔軟になりその重さが腰に集まるためには、呼吸が重要である。呼気では固まってしまうので吸気で腰腹を気(自然のエネルギー)で満たすのである。そして、この吸気で技を掛けるわけであるが、腰腹に力と自然のエネルギーが集まっているので、これを如何に効率的に遣うかということが大事となる。

「胴体」で腰の対極にあるのは肩であろう。肩は左右にあるので、腰との位置関係は逆三角形となる。従って、腰を支点とすれば肩はヤジローベーのように動きやすいはずである。そこで、腰腹にあるエネルギーを、腰を支点として肩を遣うことによって、肩を通して手に伝えるのである。これが、腰腹の力であろう。つまり腰腹の力は、肩を遣うことによって上手く手に伝わるといえるだろう。この力は体重 × 慣性ということになるので腕力などとは全然違ったものであるはずだ。

「胴体」が上手く遣われているかどうかを知る手がかりの一つは、肩が上手く遣われているかどうかを技で見ればわかる。その好例は「正面打ち入り身投げ」であろう。「胴体」が面で遣われず捻じれていたり、肩と腰の結びが切れていたり、両肩が十分開かなければ、技は上手くかからない。ましてや、太刀で打たれたならば、肩を切られてしまうことになる。

従って、「胴体」を上手く遣うためには、肩を遣う稽古をするとよいようだ。左右の肩を陰陽で遣う稽古である。木刀での前後の切り返しなどがよい。また「肩取り」の技の稽古で、肩を遣っての「胴体」稽古をするとよい。特に、「後ろ両肩取り」では、自分も相手も想像以上の力が「胴体」から出るのに驚かされるはずである。

肩と腰が連動し、柔軟な「胴体」が捻じれずに面として動けばいい。つまり、次のステップに進めるはずである。