【第198回】 締まる手

合気道でも技を遣う場合、手先に力を集中することが大事である。甘い手先では技は掛からないし、倒して抑えても相手に立ち直られてしまい、武道としては失敗である。

手先、指先に力を集中させることは武道だけでなく、日常生活でも大事である。指先に力が入らなくなれば、生活していく上でも不便になる。

力には二種類あるといえるだろう。一つは、所謂、強い弱いの力。他は繊細な力である。通常、日常生活では指先の力はそれほど強くなくてもいいわけで、繊細な力を出したり感じることがより重要になるだろう。

指先から手首、前腕、上腕と手を観察してみると、関節と関節の間隔は手の先にいくほど狭くなっている。このことが間隔の広い関節から最も狭い指の関節に力が流れ、その方向に力を遣うものと考える。もしこれが逆に先端にいくほど関節の間隔が広くなるとしたら力は逆方向に流れやすくなるだろうし、力は出せないのではないだろか。

本来、関節の幅が狭ければ、筋肉の量も少ないわけでもあるから大きな力は出ないはずである。それ故、手先、指先に力を集めて出すように意識しなければ力はでないし、技は効かないことになる。
そこで広い関節部から狭い関節部に流れる力を増幅し、最後に一番狭い指の関節に力を集中するという意識した稽古が必要になるのだろう。

手先に力を集めてそれを効率的に遣うためには、小指が重要な役割をするようである。相手の手首や肘を掴んだり、木刀を握る場合には、小指を締めなければならない。小指を遊ばせて人差指で掴んでも、手は締まらず、大きな力は出ない。 小指は体の最も表側にあるので、体の表側の筋肉と繋がっていると思える。力は体の表から出るのが自然であるので、体の表からの力を遣うようにしなければならないわけである。だから、手先の指は小指から、小指主導で遣わなければ手は締まらないことになる。

また、手を直線的に遣っても力は出ないし、動きが制限されてしまう。上腕、前腕、手首、手先は反転するように遣わなければならない。例えば前腕を肘を支点に動かしてみるといい。直線的には伸ばしたところから上と内側の方向にしか動かない。前腕を反転々々させることによって360度自由に動かして遣うことができるようになる。腕の筋肉は、回転させて遣うように出来ているように思える。もちろん腰など他の部位も同じである。

しかも、手先、前腕、上腕とそれぞれ反対に回転すればより大きな力が手先に集まり、締まってくるといえよう。例えば、片手取り四方投げの場合、手先が内側に回転すれば、次の前腕は外側、その次の上腕は内側に脇を締めるように回転させるわけである。手先から肩まで一本調子で遣っても手先に力は集まり難いし、相手の力が強ければ、自分の手首や肘や肩を壊してしまうことになろう。

体が出来ているように、体を遣っていかなければならないことになる。体が出来ているように、ということは、「法則」に従ってということであり、「法則」というのは、合気道開祖がいわれる「宇宙の法則」(自然の条理)ということになろう。つまりは、宇宙の法則に則った遣い方をしなければならないということであろう。