【第197回】 手をつくる

合気道の技は手で掛けるので、手は大事である。手がよく働いてくれるために腰腹や下肢も大事だし、そのサポートも必要であるが、まず手自身が充分に働けるようになっていなければならない。

技を掛けるには力がいる。その力は結局、骨と筋肉から出ると言っていいだろう。また、いい技を掛けるには大きな力と質の高い力が必要であるから、そのような質と量を兼ね備えた力が出るような筋肉と骨の手をつくらなければならないし、遣っていかなければならないことになる。

ここで「手」とは、所謂、手先から前腕、二の腕、肩、胸鎖関節までの広い意味でいう。手先から胸鎖関節まで7か所に関節があると考える。
この関節と周辺筋肉が遣えるよう稽古をしなければならないが、上手く遣うためにはそこに筋肉をつけるだけでなく、カスを取ってしまわなければならない。本来、合気道の技の練磨を稽古していれば筋肉が出来、カスは取れるようにできているはずであるが、実際には中々難しく、また不十分なので、自主稽古でやっていくほかない。

手つくりの方法を考えてみたいと思う。
先ず指である。指には各々三か所の可動関節がある。医学用語では、先から遠位指節間関節、近位指節間関節、中手指節間関節という(親指は別称)。
「指の三か所の関節を隣同士鋭角になるように折れ曲がるようにするといい」と教わっている。三か所とも鋭角になれば四角(□)ができる。しかし特に一番先端の関節部(遠位指節間関節)は鋭角になり難いようだ。一度、有川師範に、あの強力な力で、鈍角だった箇所を鋭角になるよう押し付けられた時の痛さは、今も忘れられない。しかしいくら痛くなるまでやってもすぐに鋭角にならないようであるから、少しづつ鋭角に近づけていくほかないようだ。風呂の中や暇をみて、曲げたり、また伸ばしたりして鍛えていくほかはないだろう。

次は手首である。手首を柔軟に自由に使えるために、手首を左右に動かすだけでなく、上下の直角にも遣えるように鍛えなければならない。
そのためには手首を振る運動がいいが、手首を左右だけでなく、上下垂直にも振ることである。そいて左、右と上、下に手の平を反転々々して回す鍛錬をするのがいい。十字で円になるはずである。である。これで手首のカスが取れて動きやすくなるはずである。後は二教などで鍛えていけばいい。

肘は通常、伸ばしたところからは上と内側への二方向にしか動かない。しかし腕を反転々々しながら回転することによって上下左右自由に円く動くようになる。まず腕を反転してくるくる回す体操で肘を柔軟にするのがいいだろう。
そして技を掛けたり掛けられる時、肘は突っ張ったり、直線的に遣わずに、回転させながら遣うことである。直線的に遣えば力が出ない上、無理が出るので肘の動きが制限されるだけでなく、肘を痛めることになる。

肩は他の関節と違って最も自由に動く。上下左右の上げ下ろし、また前後左右の回転が出来る。しかしあまり自由に動くので酷使されるようで、肩を痛める原因にもなる。40肩、50肩は肩の酷使からくると言えよう。自由に動くということは、過重には弱いということでもある。大事に遣わなければならない。
肩は他の関節とは正反対になるべく力の負担が掛からないようにした方がいい。そのためには「肩を貫く」ことである。
肩を貫く稽古には、腕を大きくまわす運動がいい。但し、肩を支点にまわさないで胸鎖関節を支点にまわさなければならない。
また肩を貫いて技を遣うには、地の足側の肩を遣わず天の足の時に遣うことと、吸気と呼気の息遣いがポイントであるから、それを稽古で身につけなければならないだろう。  
肩に負担をかけずに力を出したり伝えるには、肩甲骨を遣うことである。胸鎖関節の所を支点として肩甲骨が開いたり閉じたりするようにすればいい。
しかし肩甲骨は普段使っていないので、カスが溜まっていて思うように動かないものである。この周りを柔軟にしなければならない。
この肩甲骨の部位は相当重要であるようである。かつて有川師範が本部で教えておられたとき、いつも簡単な準備運動を1,2分されるのだが(実は、いつもこの体操が当日の稽古のテーマであったのだが)、いつも最後に肩をまわす動作をされていたものである。今思えばこれが肩甲骨の重要性とそこを柔軟にしろという暗黙の教えだったと、遅まきながら気づいた次第である。
手を最も力強く、大きく回したり、振れるのは、肩甲骨を遣い、そして胸鎖関節を支点にして手を遣うときであろう。

手は7つの可動関節部と肩甲骨を部分々々毎に解きほぐしそして鍛え、遣うときは一本の「手」として遣わなければならないだろう。
手を無闇に遣わず、大事に遣い、鍛えていきたいものである。