【第192回】 羅針盤

現代の世の中は、混迷の中にあるといえよう。なかなか思うように生きることは難しく、どう生きていくべきなのか模索している。食べるものやモノは有り余っているし、情報も必要以上に飛び交っている。子供の頃には、大人になったら腹いっぱい食べられればいいと思っていたが、腹一杯食べることが出来るようになっても、腹いっぱいになっても満足できないということが分かった。どう生きれば満足できるのか、誰もがなかなか分からないで暗中模索しているといえよう。

モノやお金がある程度なければ、生きていくのは難しいし、合気道の稽古にも通えない。モノや金は生きる上の土台であり、必要である。しかしそれがすべてではないということである。これを土台にして、この上に何かがなくてはならないということだ。

それを人は知りたいと思っているのではないかと考える。忙しい世の中では、なかなか意識している暇や余裕はないだろうが、無意識にそれを探しているのではないだろうか。そして、それが多くの人に分からないから、世の中が混迷しているのだと思う。

人が真から満足できるのは、心から一生懸命やったことをやり遂げたとき、完成したとき、十分やり遂げたと思うときであろう。一所懸命やることは、人生で何度もあるだろうが、自分の純粋の気持ちからやることは、それほど多くはないだろう。学校の勉強、会社の仕事も一所懸命やらなければならないが、大概は喜んで、自ら進んでやるわけではない筈である。自ら一生懸命やるのは、好きなことか、これはどうしてもやらなくてはいけないと自覚したものであろう。

合気道では、人には宇宙から与えられた天命というものがあり、その各自の使命を果たしていくのが人の勤めであると教えられる。そして、人の使命を完成させるお手伝いをするのが合気道であると言われている。

開祖は、「合気道とは、各人に与えられた天命を完成させてあげる羅針盤であり、和合の道であり、愛の道なのです。」(『武産合気』と言われている。

合気道は、人に使命のあることを気付かせ、その使命を完成させるよう導く羅針盤ということになる。戦前、開祖のもとには皇族、軍人、学者、芸能人、相撲取り、武術家など、各界から一流の方々が集まられたが、恐らく技を学ぶためというより、この「羅針盤」のためではなかったかと考える。

現代人、特に今の若者には、自分の使命に気がついて欲しいし、その使命を完成して欲しいと思う。そうすれば、生きることに真から喜びと歓喜を覚えることができるはずであるし、明るいよい世の中になっていくはずである。ここにも合気道の奥深さがある。これだけのものは今の世にはないだろう。

合気道の稽古をしていけば、きっと「羅針盤」がみんなを導いてくれるはずである。