【第190回】 徒手単独動作

合気道の基本的な稽古は、二人で組んでやる相対稽古である。技を掛ければ受けは何らかの反応を示してくれるので、おもしろいし、稽古がしやすい。技の型を知っていれば、誰でも出来る。

だが、合気道は相手を投げたり抑えたり、勝ち負けの勝負を目的とするものではない。技を練磨して精進していくものである。技を練磨するというのは、宇宙の営みを形にした技を、自分の体に取り入れていくことである。技に自分をはめ込んでいくことである。

従って、技をどこまで身につけたかを知るには、その自分が取り入れた技をどれだけ再現できるかということになろう。それを、通常は相対稽古の相手を通して知るわけだが、それでは相手によって左右されるので、理想的なものとしては、相手に左右されることなく純粋な実力が分かる「単独動作」ということになるだろう。

正確に言えば、剣や杖などの得物は遣わない「徒手単独動作」である。すべての技、呼吸法の形を、単独でやるのである。また、剣や杖の素振りや型も、素手で、剣や杖を持っているつもりでやる。

開祖はかつて神楽舞を扇子や素手で、いかにも杖や長モノを持っているかのように舞われた。また、弟子に技をかけるにも、相手を投げたり抑えるために特別な動きをしようとしたわけではなく、単にご自身が動いただけで、そこへお弟子さんが自然に巻き込まれていくように見えた。技とはそうあるべきなのだろう。

上手な先生や先輩達は、単独動作でも技を上手に示すことが出来た。様(さま)になっているのである。一教でも二教でも四方投げや入り身投げでも、単独動作で様になっているし、単独で動いてくれると、かえって動きが見えて、よく分かるのである。特に、人に技を教える立場の人は、単独で様になるような技を示せなければならないだろう。

単独動作で動けるようになれば、自分のイメージトレーニングがやり易くなるだろう。イメージトレーニングができれば、どこでもいつでも稽古が出来るわけだから、稽古量が相当増えることになり、上達も促進されるはずである。

剣や杖を持ったつもりの単独動作で動けば、徒手では難しい“武道の間合い”、“スピード”、“迅速な入り身と転換”、“体の正面で仕事をする”、“手先が体と連動して螺旋で動く”等などが身に付きやすいようである。太刀取り、杖取り、短刀取りなどを様になるようにやりたければ、まずは得物をしっかり稽古し、次に得物をもったつもりで、徒手単独動作をみっちり稽古をすべきであろう。