【第188回】 相対性理論と合気技
合気道は技の練磨を通して宇宙の法則を身につけていくので、宇宙を研究しているとも言えよう。しかし、宇宙を研究しているのは合気道だけではない。宇宙科学、宇宙物理学、天文学等などの科学はその最たるものであり、宇宙の専門家である。
合気道が追及する宇宙と、科学が追及している宇宙は、同じものであるはずである。そして、両者には共通に追い求める何かがあるはずである。例えば、「人類とは何か。何故に存在しているのか。どこから来たのか。そしてどこへ行くのか。」ということである。これは、ゴーギャンのような画家や小説家、哲学者、宗教家など等も追及している。また、茶道、華道、仕舞などの芸術や芸能の世界でも、最終的には宇宙を追及し、宇宙との一体化をはかることではないかと思う。
天才なら別だが、長くもない一生で、合気道だけから宇宙を知り、宇宙の法則を身につけるのには限りがある。せっかく同じ宇宙を追及している異分野があるのだから、そこが発見した宇宙法則を活用させて頂き、それを技に取り入れていけばいいのではないだろうか。その異分野の理論が合気道の技として機能すれば、その宇宙理論を自得したことになるし、自分の合気道は宇宙の法則に則っていて正しいということになるだろう。
宇宙を研究していて、合気道に最も関係があると思われる学問のひとつが「相対性理論」であろう。何故かというと、「相対性理論」は、それまでの物理学がバラバラに扱ってきた「時間」と「空間」を「時空」という概念にまとめたものであるからである。合気道も時間と空間を超越したものを目指すものだし、心と体の魂魄の双方を煉るものであり、それぞれをバラバラに扱うのではなく、一体化して扱わなければならないからである。
「相対性理論」が証明した現象やその影響は、物体の速さが高速に近い場合に際立って表れるものであるといわれるが、通常の合気道の動きにおいても表れるような気がするし、最先端の「相対性理論」を「わざ」に取り入れられたら素晴らしいと思う。
「相対性理論」と合気道の幾つかの動きと比較してみる:
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「相対性理論」では、「スピードが上がると体重がどんどん重くなっていく」という。
「相対性理論」の基本的な理論である
E(物質がもつエネルギー) = m(物質の質量) x C2乗(光速の二乗)
物質は運動することによって質量が増え、なおかつ持っているエネルギーも増えるというのである。つまり質量とエネルギーは同等であるという。
ここでの光速(C)を合気道では、心(意志、意識)としてみれば、心を光速で遣えば体重は重くなるような気がしないでもないようだ。
また、合気道では、動くスピードが速ければ速いほど、エネルギーが増すことになるので、相手に掛かる重さは大きくなるはずである。魂魄のスピードを上げると体重が重くなることは、自分ではなかなか実感できないようだが、それを信じてやればいいのではないだろうか。
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「相対性理論」では、「動くものは、止まっているものより時間の進み方が遅くなる」という。
ということは、止まっているものは、動いているものが高速に見えるということになるだろう。
合気道の技の動きと合わせて考えてみると、例えば、太刀さばきのスピードで入り身や転換をした場合、心(意識)は高速で動き、体がそれに従うが、ゆっくり体をかわしても、打った相手は相手の動きを実際以上に速く感じ、一瞬空白状態になる。
また、開祖が複数の内弟子の目の前から消えて、離れた所にテレポーションしたなどはこの「相対性理論」に当てはまるのではないかと思う。
この理論を、光速より速いと思われる「心」(意志、意識)で捉えてみれば、合気道の稽古にも当てはまるように思える。
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「相対性理論」では、「重力の強いところでは、光はまっすぐ進まず、曲がってしまう」という。
合気道では、ここでも光を「心」(意志、意識)に置き換えて考えればいいのではないかと思う。
実際に鍛え上げた人の傍には寄り付き難いものである。傍に近づくと自分のエネルギーがはじき返されたり、相手のエネルギーが突き刺さってくるように感じるからである。こういう人を手刀はもちろん、木剣で打ち込んでも、中心を逸れてしまうものである。
また、開祖のお話にも「鉄砲の弾にあたらなかった」とあるし、開祖の高弟の何人かが終戦で道場に戻られて話しをされた時、「気を出していたので弾が逸れて当たらなかった」と語られていたのは、これに該当するのではないかと思う。
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「相対性理論」では、「加速度運動を行うものは、止まっているものや等速直線運動を行うものより、時間の進み方が遅くなる」という。
合気道の基本の動きは螺旋である。体も心も等速直線運動ではなく、加速度運動をするための渦状螺旋の動きである。加速度運動で技を遣えば、時空を超越したように早くも遅くも動けるし、等速で動かされる相手は、こちらの出しているスピードの数倍を感じることになる。
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「相対性理論」では、「重力の影響を受けているものは、それの影響のないものよりも、時間の進み方が遅くなる」という。
「ゾウの時間 ネズミの時間」(本川 達雄 東京工業大学生命理工学部基礎生物教授)にあるように、光速の世界でも、体のサイズの大きい動物、重量のある動物ほど、心周期も呼吸も筋肉の動きがゆっくりになるということになるのだろう。
このことは合気道に限らず、何事でも鍛え上げた人はどっしりとして、地に根が生えたようになり、立ち振る舞いがゆったりとすることを見ても、そのように重力の影響を受けている人の時間の進み具合は遅いのではないかと推察する。
この他にも「相対性理論」はいろいろあるわけだが、ここまでの例とする。光速を対象にしてつくりだされた理論がはたして合気道の技の稽古に本当に関係があるのか、あってもどれだけ関係があるのかは分からないが、宇宙の法則と合気道との関係に対するひとつの考え方として考えてみた。
参考文献 『Newton』( 2009年5号 )
Sasaki Aikido Institute © 2006-
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