【第186回】 重心移動と股関節

合気道は技を練磨して上達していくわけだから、技ということを意識して、技が少しでも上達するよう技を磨いていかなければならない。「わざ」には技と業があるが、ここでは業を含めて「技」ということにする。

合気道は、技を磨くための稽古方法に相対稽古法をとっているので、相手への技の掛かり方で、自分の技の程度、上手い下手、問題の有無、進歩の具合などがわかることになる。 技が掛る、技が効くためには条件があるが、そのうちの一つに、技が切れないことがある。技が途中で切れてしまえば、またそこからやり直しをすることになるので、相手は立ち直ってしまい、それまでの動きは無になってしまい、技が掛からないことになる。

技が切れてしまうには幾つかの原因があるが、大きく三つに分けられるだろう。息の遣い方、こころの持ち方、体の遣い方である。今回はこのうち体の使い方に絞って、切れない技のための体の遣い方を考えてみたい。

合気道の技は手で掛けるので、手も大事であるが、下半身が大事なのである。技を掛けて、体の動きが止まってしまう主な原因は、足と言えよう。足が止まり、左右の両足共に重心を落とすからである。相撲でいう「足がそろう」ことになる。そうすると足が止まるから、それを補うために手を振り回すことになる。

足が止まるのは、腰が上手く機能しないからである。腰はいろいろな筋肉や関節で構成されているので、腰を上手く機能させるためには、腰の周辺関節や筋肉に十分働いてもらわなければならないことになる。

足の動きが切れずにスムーズに動くためには、重心の移動が重要であるから、股関節が柔軟でなければならない。股関節を外旋させることによって膝頭と足先を自分の進みたい方向に向かせ、二軸の体軸を一軸に寄せ、重心を着地足に真上から落とし、また、着地と同時に、骨盤から反転外旋させることにより、8字に動くことが出来、下半身の動きが止まらないわけである。スケートの要領で重心を途切れないように、左右にスライドしていくのである。初心者はこのスライドが出来ないので、スケートを始めた初心者のように重心を真中に落として動くのである。

さらに上下の動きもスムーズでないと、突っ立ってしまい、動きが切れることになる。そうならないためには、まず足先で地や床を蹴って進まないことである。つまり、足が着地したときと地を離れるときの足の甲と脛の角度をできるだけ小さくすることである。その典型的なものは、お能の歩み方であろう。また、オリンピックの金メダリストのカール・ルイスも、その角度が小さく、猛スピードで走っても約20度であるという。(『スポーツの選手なら知っておきたい「からだ」のこと』)(小田伸午著)

もうひとつは、「膝を抜く」ことである。踵から着地すると同時に、腹の息を抜きながら、膝にかかる力を腰腹に戻すのである。すると、着地時の足の力が腰腹に伝わることになる。着地側の足から反対側の足に重心を移動するときは、足と結んでいる腰腹でコントロールすればいいことになる。

股関節を柔軟にする伝統的な鍛練法は、相撲の「股割(またわり)」と「四股」である。これは、どんな武道の体づくりにもなる総合基礎準備運動と言えよう。

合気道では、坐技であろう。開祖晩年時代の稽古は坐技が多く、膝の皮がむけて血がでたり、稽古衣のズボンの膝の部分に穴があいたり、袴も膝がすぐ抜けて、二重三重につぎあてをして稽古していた。だが、坐技には合気道の体をつくるための重要な意味があるわけである。武道の体で最も大事な股関節を鍛えなければ駄目だという、無言の教えであったわけである。

切れない動きのための重心移動には、股関節が大きな役割をする。股関節を意識した稽古を一度やってみるのもよいだろう。特に、股関節を意識して坐技をやるのがよい。