【第186回】技と宇宙

合気道の極意を開祖は、「己の邪気をはらい、己を宇宙の動きと調和させ、己を宇宙そのものと一致させることにある。」と言われている。ということは、「宇宙」ということが分からないと極意を得られないことになるので、「宇宙」について考えてみなければならない。

漢の哲学書「淮南子」(えなんじ)で、宇宙の「宇」は四方上下の空間、宇宙の「宙」は往古来近の時間としている。そうすると宇宙というのは、「時間と空間」ということになる。開祖が「我はすなわち宇宙なり」ということをよく言われていたが、ご自身とご自身の技が「時間と空間」を超越した宇宙であるといわれていたのだろう。

「時間と空間」を、超越した宇宙と調和させたり一致させるとはどういうことなのかを考えてみると、自分の今いる時間と空間を自由に無限に拡大したり縮小することであろう。無限に縮小した時間と空間は、開祖がよく言われていた「○にポチ」である一元の神であろうし、また無限に拡大した時間と空間は、宇宙が生成化育して完成する時であるだろう。

合気道は技を鍛練しながら、宇宙と調和したり、一致しようとするものであるから、目先だけの時空での技を遣っての稽古では駄目ということになる。己の技を過去の時間にどんどん戻し、一元の神に繋がるようにしなければならないだろう。今の時代から、柔術の時代、戦闘・殺傷の時代、地球の創生、宇宙の誕生、無の時代へ、である。合気道の技はこれらの過去の時空を包含しているはずである。だから、一時代前の柔術の技としても遣えるし、宇宙や地球を創造した時代のように、何もないところからものが生み出されるということにもなるのだろう。

また、遠い将来には魂魄の整った美しく完成した宇宙が出来上がるはずである。一元の神から宇宙へは螺旋の動きがあったり、魂魄が一つに結んで調和する等などの要素があるはずである。合気道同人は、この時空を自由自在に移動できるように修練しなければならないことになる。宇宙ができたといわれる137億年前まで一瞬で飛んでいくわけである。これを、時間を超越した速さ「正勝、吾勝、勝速日」というのだろう。

また、未来に向かう時間も包含していなければならない。それは宇宙が創造しようとしている理想的な宇宙である。理想的な宇宙をつくるために、人類は生きているようである。そのために宇宙が求めているものは、「愛」であるという。「上下四方、古往今来(こおうこんらい)、宇宙のすみずみまで及ぶ偉大なる『愛』」と開祖は言われる。「愛」の欠けたものは、宇宙生成化育の仕事の邪魔をすることになるので、大悪ということになる。合気道も「愛」が欠けない稽古をしなければならない。

時間を超越した技を遣うようにするのが、合気道の技の練磨であると考える。技には、ミクロの時空とマクロな時空が入っていなければならない。例えば、限りなく繊細な動きと無限大な動き、つまり心が働かなければならない。

時間と空間を超越した技が遣えれば宇宙と調和し、一体となった技が遣えるといことになるのだろう。開祖のようにこれを会得した人は、時空を超越した宇宙がその腹中にあって、「我はすなわち宇宙」になる、ということを信じて修行しなければならない。