【第183回】 体を開く

合気道の相対稽古で相手に技を掛けた時、うまく行かない場合にはいろいろな原因があるだろうが、その一つに「体の開き」がある。体が十分開かないために力が出なかったり、相手に頑張られてしまうのである。その典型的な基本技としては、まず「正面打ち入り身投げ」である。

入り身で相手の死角に入ったとき、十分に体が開かないのである。つまり臍(へそ)が相手の臍が向いている方向と平行になっていない。開かないから、どうしても相手と取っ組み合う体勢になってしまう。もう一つの技の例としては、「交差取り二教小手回し」がある。体を十分開かないと手で決めることになり、力が出せないし、相手の手が離れてしまったりするのである。

体が十分開かないと、手が詰まってしまうので、腕が折れたり、縮んでしまうから、手から力がでないし、次の動作が出来ず、動きが切れてしまうことになる。

合気道は武道であり、総合武道と言われたくらいだから、徒手だけではなく、剣や杖や槍などの得物を想定した体の遣い方を稽古していかなければならないだろう。得物で打たせたり、突かせたとき、体が十分に開かなければ切られたり、突かれてしまう。徒手だけの稽古をしていると、どうしても甘えてしまうので、たまに得物を遣った稽古をするのもよいが、徒手の稽古であっても、常に相手の手を剣や短刀等の武器と思って、稽古をしていくべきであろう。

体を開けないのは、まず、体を開くことの重要さを認識していないこと、そしてそれを意識して稽古していないことにあるだろう。先ずは、体を開くことを意識して稽古することである。

意識しても、体を十分に開くことはそう容易ではない。なぜならば、相手の攻撃に対して恐怖心があるからである。つまり、相手の打ってくる手、掴んでいる手が気になるので、そこを見てしまうのである。それを見れば、相手と向き合ってしまう形になるので体は開かない。また、体が開いたつもりでも、気持ちが相手に残ってしまうと体が充分に開けなくなる。

体が開くということは、体を十分開くことと、気持ちも十分に開くことである。つまり相手を見たり、相手に気持ちが残らないようにしなければならない。

「体を開く」稽古は、「入り身投げ」と「交差取り二教小手回し」だけでなく、「四方投げ」「一教」「二教」「三教」「小手返し」「回転投げ」等などすべての技でも出来るし、またやらなければならないが、特に、「転換法」「入り身転換法」等の基本準備動作で稽古するとよいだろう。また、剣を遣った左右の切り返しをやれば、体と気持ちの開きがシャープになる。

しかし、このための最も基本的な稽古は、相対稽古で多少打たれようが、突かれようが、体を開くことに集中した稽古をすることであろう。多少痛いだろうが、命に別条はないはずだ。