【第181回】 腹腰

人は力を出すとき、「腹に力を入れろ」という。小さい時から言われてきているので、力を遣いたいときは自然と腹に力を入れるようになる。しかし、合気道の技を掛ける場合、腹に力を入れて、腹でやろうとしても、意外と力はでないし、動けなくなるものである。腹は大事だが、腹の遣い方、腹からの力の出し方に、何か秘密があるようである。

合気道の技は手で掛けるが、手だけの力では弱いので、もっと強い力を遣わなければならない。片手取りで技を掛けるときには相手の手は一本だが、諸手取りになると、相手は二本の手で持ってくるので、その場合は、相手の二本の手より強いものを遣わなければならないことになる。それは、腹腰からの力であるはずだ。
腹腰からの力というのはどういう力か、腹と腰の関係はどのようなものなのかを考えてみなければならない。

腰は体の要(かなめ)といわれるし、腰は体の中心であろう。つまり、腹ではないはずだ。なぜなら、腰は体の表にあるが、腹は体の裏にあるからである。合気道の技を遣うに当たっては、体の表を遣わなければ、力も出ないし、技も掛からないことから分かるだろう。従って、体から強い力が出せるのは腰ということになるだろう。

腹から力が出るのも事実であるが、この場合は腰からの力であるはずだ。腹だけでは力を出しても、大した力は出ないし、出しても後に弾き飛んでしまう。

腹は、腰の表裏の対称にあるので、腰に力を入れれば、その対称の腹に力が伝わることになる。腰が中心であるので、腰が支点となり、腹を遠心力で動かすことになる。その遠心力によって、腰から出される力が、腹で倍増されることになろう。強い力が出るようになると、下腹が張ってくるのは、相撲取りだけでなく、武道家も同じである。下腹が出ていれば、腰からの遠心力は相当加速されるはずである。

すべての技は、腹腰を上手く遣ってやらなければならない。腹だけに力を入れてやっても、うまくいかない。腰を支点として、腹を動かすのである。腰から出した力を、手先に伝えて遣うのである。手先と腹が繋がっていれば、腹の遠心力が手先に懸るので、強力な力が出ることになる。

すべての技でそうしなければならないはずだが、特にそうしないと出来にくい基本技がある。それは、交差取り二教である。この交差取り二教を、何度も稽古してみるとよい。これができるようになったら、諸手取り呼吸法、四方投げ、回転投げ等でやってみるとよい。これらの技で腹腰が上手く遣えるようになれば、腹腰の遣い方が理にかなっていることになろう。あとは、その腹腰の遣い方を、他の技にも取り入れながら、腹腰を鍛え、技を精錬していけばよい。

武道は、土台である腹腰が大事である。腹腰を意識した稽古をしたいものである。