【第179回】 合気道と得物(剣と杖)

合気道は現代の総合武道であるから、体術だけではなく、剣術、杖術などにもある程度通じていなければならないことになる。それ故、合気道では剣や杖の攻撃を制する技を教えているし、太刀取りや杖取りの試験もある。本部道場には木刀や杖が備えてあるが、恐らくほとんどすべての合気道道場には、木刀と杖が備わっていることだろう。多くの稽古人は自主稽古時間に、そのような得物で太刀取りや杖取りの稽古、あるいは素振りの稽古をしている。

太刀取りや杖取りが出来るためには、本来は、太刀や杖で攻撃してくる相手よりも、太刀や杖を扱う腕が格段に上でなければならない。そうでなければ、素手で相手の太刀や杖を制することなど、不可能なことである。だから、剣や杖は相当振り込まなければならないことになる。まずは、剣と杖を振りこなすことが重要である。しかし、普通の人は道場に毎日通うこともないだろうし、素振りの稽古の時間も道場ではあまりないはずなので、得物の素振りは自宅でやった方がよいということになる。毎日やることが、大事だからである。

合気道の剣や杖の稽古は、剣道や杖道のそれとは違うはずである。剣道や杖道の形や技を真似しても意味がない。合気道での剣や杖の稽古は、合気道の稽古になるような稽古でなければならないだろう。つまり、合気道の徒手での技に活かさなければならないと考える。

合気道の稽古における剣や杖は、一口で言えば、得物を手足の延長として遣うということである。素手では中々気が付かないことや、無意識でやってしまうようなこと等を、得物を遣うことによって意識するのである。それによって、素手での技が出来難い理由や出来ない原因等に気づくことが出来るし、また得物の遣い方を改善することによって、それを徒手の動きに結びつけて、徒手でのわざ(業と技)を改善できるのである。

剣や杖を振って大事なことは、剣と杖は体の異物であっては駄目で、手の延長であり、体の一部として遣わなければならない、ということである。また、それに関係して、剣と杖の動き(業)は、原則的に、徒手における手や足や体の動きと同じでなければならない、ということである。

合気道における剣杖の遣い方を、合気道の徒手での手足の遣い方と対比しながら、思いつくままにいくつか挙げてみる:

合気道での剣杖の遣い方 徒手での手足の遣い方
体は捻らず、体を面として遣う 面と軸として遣う
剣や杖と手足が連動して動く 手と足が一緒に動く
剣や杖は左右陰陽で動かなければならない 手足も左右陰陽で動かなければならない
肩で振らない 手は肩を貫いて遣う
着地している側から剣杖を遣わない 着地している側の手から技を掛けない
得物は体の前で使われなければならない(常に得物で防御している) 手は体の前で使われなければならない
得物は腰腹と結んでいなければならない 手足は腰腹と結んでいなければならない
杖は十字で反転々々して遣われなければならない 手は十字で反転々々して遣われなければならない
剣杖は腰が中心に動かなければならない 手足も腰が中心に動く
剣杖は呼吸に合わせて動く 手足も呼吸に合わせてうごかなければならない
拍子が大事である 同左
相手の剣や杖を弾かず、粘ばしてしまう 相手の手や体をくっつけてしまう
遠心力と求心力を備えていなければならない 同左

合気道としての剣や杖の得物を遣う稽古をしていけば、合気道の技を練磨する上での、手足の遣い方が分かってくるだろう。逆に、徒手で手足や体の遣い方に新しい発見があれば、それを得物で試してみればよい。得物と徒手の遣い方には深い関係があることがわかるはずである。

合気道の基本である徒手が精進するような得物の稽古をしなくてはならないだろう。つまり、得物を手の一部、手の延長になるような稽古をしていかなければならない。