【第174回】 緩みと締まり

技が上手く決まる、決まらないは、主に体の遣い方に原因がある。今回は、体を弛めたり締めたりすることの重要さと、体の緩め方、体の締め方、及びその技への応用などを研究してみることにする。

武道である合気道も、歩を進めるのはいわゆるナンバ(常足)である。ナンバで歩めば、着地した側が締まり、反対側が緩むことになる。着地した側が締まるから技が決まることになり、最後に技を決めるのは着地した前足側となるはずである。

しかし、着地している側は足だけでなく、腰も肩も腕も締まっているので、着地側は自由には動けない。従って、技を掛けて相手を導くのは、着地している側では出来ないことになる。着地している足の側の手を遣ったり、腰や肩を遣って技をかけようとしても、十分な力は出ないし、体の働きもままならず、場合によっては体を痛めることになる。

自由に動けるのは、着地していない側の足、腰、肩、腕、手である。着地している側の部位の関節や筋肉が締まるのに反して、こちらの部位のそれは緩むのである。指先から肩までの関節は緩み、肩は抜け、胸鎖関節が緩み、胸が広がるようになる。

技が上手くかからない理由の一つに、締まっている着地側で、力を入れて技を掛けようとすることがある。その典型的な例としては「天地投げ」や「二教裏(小手回し)」等がある。「天地投げ」では、はじめに押さえられた手を上げてしまうことである。ナンバ(常足)で動いていれば、相手に持たれている手は着地している側であるので、この着地側にある手は動かせないはずであるのに、動かしてしまうからである。持たれた手が動くのは、持たれた手と反対側の足が着地して、こちら側が弛んでからである。反対側の足が着地し転換すると、相手に持たれている手が自然に螺旋で上に上がり、相手全体を吸収し結んでしまう。結ぶというのは、相手と一体化し、その重力を無にしてしまうことということも出来るだろう。

「二教裏」も基本技として、何千回、何万回と繰り返しやられるものだが、中々上手くいかないものである。その理由の一つが、やはり着地側で技を掛けるからである。着地側の前足に体重を落とし、その側の肩と手に力を入れているので、自分も相手も締まってしまい、固まってしまうのである。

「二教裏」を掛けるときは、技を決めようとする側とは反対側の足に重心を移動し、その反対側に締まりを与えることによって、相手の手が接している肩が緩み自由になるので、相手の手と自分の肩が結び、相手の手を張り付けた肩が螺旋で自然に舞上がってくるようになるのである。最後に決める時は、相手の手がある肩側の足の着地と同時に、弛んでいる肩を締めて決めればよいのである。決めには緩みではなく、締まりが必要だからである。

合気道の技は、緩みと締まりの陰陽でも構成されているようだ。また、この強弱と可動範囲によって技の効き具合は違うことにもなるようだ。

合気道の技は、緩みと締まりが出来る体をつくれるように出来ている。「天地投げ」と「二教裏」だけでなく、すべての技で緩みと締まりが出来るようにしたいものである。

<追記>
体を緩めたり締めたりしながら、肩が貫ける感覚を得る方法の一つに、木刀を遣う方法がある。木刀を頭の上にまっすぐ、出来るだけ高く上げる。右足が前で重心が右足に掛かっている間は、右手は肩が邪魔して途中までしか上がらないが、重心を左足に移すと右側が自由になり、肩も抜け手が更に高く上がるはずである。