【第174回】 円内、円外、境界線

合気道の主な稽古は、相対で技を錬り合う稽古である。基本技を交互に掛けたり受けたりして、練磨するわけである。技が上手く掛かるためにはいろいろな条件が揃わなければならない。その条件(ファクター)を探すのも、重要な稽古となる。そして、その見つけたファクターを繰り返し稽古して身につけていくのである。

そのファクターの一つに、円というものがある。円には自分を中心にしたものと、相手を中心にしたものがある。技を掛ける場合は、自分の円の中に相手を取り込んでしまわなければならない。これを逆に、相手の円の中、相手の円内に入ってしまえ、ば相手に引き込まれて、技は掛からなくなってしまう。

初心者がよく相手の円内、自分の円外でやってしまう技の典型が、「四方投げ」である。相手の円内、つまり相手の領域に侵入するわけだから、侵害された相手はいい気持ちはしないので、無意識のうちに反発心を起こし、場合によっては空いた片方の手で顔面を打ってきたりする。相手にその意志がなくても、物理的に相手の脇を締めてしまうことになるので、相手の腕を上げることもできなくなり技がかからなくなってしまうことになる。

逆に、相手を自分の円内に無理に取り込もうとしても、相手は自分の円内から出れば危険と感じるので、相手はそう簡単に応じてはくれない。強引に引っ張ったりすれば手を離されたり、争いになるので、合気道ではなくなってしまう。

相手を快く導くには、まず自分の円と相手の円の共通の領域である境界線で相手を導くことである。それから自分の円、円内に導くのである。そうすれば、相手の力は相手の円外に出るし、自分の円内に入るから、相手は無力になってしまうことになる。そうすることによって、二つの物体は一つになり、一つとして動くことになるので、争いにならず、円の中心にある者の思い通りに動けるわけである。

この円内、円外を、開祖は重視され次のように言われている。
「指一本をもって相手を動けなくすることは、誰にでもよく出来るはずである。人間の力というものは、その者を中心として五体の届く円を描く、その円内のみが力のおよび範囲であり、領域である。いかに腕力が自慢の者であっても、己れのその円の範囲外には力がおよばず、無力になってしまうものである。」(『合気真髄』)

円内、円外、境界線の研究、そして、それを身につける修練も重要である。