【第165回】 腕を鍛える

合気道の技は手で掛けるので、手は非常に大事である。しかし、一般に手の重要さはあまり意識されていないように思える。どうやら稽古を積めば、手は自然に上手く遣えるようになると思っているようである。そのせいか、動かせばいいとばかり手を振り回して手を遣いすぎてしまうのである。

手の重要さが分かってくると、あまり動かさないようになるはずである。技は足で掛けろと言われるように、足が動いていれば手をあまり動かす必要はないし、手が腰と結んでいれば、手が無節操に動くことも出来ないはずである。

手は大事だが、それでは手はどうあるべきなのか。まず相手に手を掴まれてもつぶされないような、しっかりした手である。次に、折れない手でなければならない。技をかけるときに力負けしたり、癖で手が折れ曲がってしまってしまわないことである。三つ目は、大きな力、遠心力と求心力を兼ね備えた呼吸力が出る手である。

ここような手をつくるために、まず大事な手とはどこなのか分からなければならない。ここでいう手とは、広い意味の手で、上腕(にのうで)、前腕(まえうで)、手を含む上肢をいう。

手には7つの関節がある。胸鎖関節、肩、肘、手首、それに3つの指関節である。指先から肩までが手と考えて手を使えば、力が出ないだけでなく、力が肩に引っかかって肩を痛めてしまうことになる。手は、胸鎖関節から遣うようにしなければならない。手を肩から遣うのと、胸鎖関節から遣うのでは、出る力の量と質に雲泥の差がある。

腕を鍛えるのは、合気道のすべての技の稽古で出来るが、その中でも最も効果的な稽古法や鍛練法は、呼吸法と一教であるといわれている。

まず呼吸法であるが、諸手取り呼吸法が特によい。自分の一本の腕を、相手は二本の手で掴んでくるのだから、理論的には両手で持つ力の方が強いことになる。そのため、初めは諸手に対抗しようと力んで、思うように動けないものである。しかし、それで力がついていき、腕が出来てくるものだ。さらに力をつけたければ、二人や三人に持ってもらって、呼吸法を稽古すればよい。その内に、諸手よりも強いものがあることに気づき、遣えるようになるだろう。

次に、腕を鍛えるのによい稽古法は一教である。一教を原点に返って稽古することである。かつて一教は「第一教腕抑え」といわれたが、一番最初に習う技であり、しっかりした腕をつくるための稽古法の技であって、最も大切な基本技とされる。いかにこの技が大事かを、植芝吉祥丸道主は『合気道技法』の中に「第一教腕抑えは、最も大切な基本技であり、合気道では、これ一つ完全に修得すれば、他の技をほとんど習わずして会得できるとまでいわれている。昔はこれを第一カ条として初心者の第一に修得しなければならないものとされていた。」と書かれている。

しかしながら、腕を鍛えるために第一教腕抑えをただやればいいということではない。どうやればいいかと一言でいうと、原点に返って昔のようにやればよいということである。しっかりと気当たり、体当たりをし、締めるところは締め、極めるところは極める稽古をするのである。技を掛ける方は、腰と手先をしっかり結び、手先に力と意識を集中して相手の腕を抑えなければならない。受ける方は息を入れながら、腕を限界まで伸ばすようにしなければならない。よほどお互いが気持を入れて練磨しないと、効果が出る「第一教腕抑え」の稽古にはならない。

手がどれだけしっかりしたかは、一教をやっても分かるが、二教の表裏、小手返しをやってみるとよくわかる。これらの技が上手く出来ないときは、まだ一教が出来てないのである。大概の技は一教ができる程度にしかできないようだから、どうしても上手くいかない技が出てきたら、一教をさらに深めていけばよいだろう。

参考文献 『合気道技法』植芝吉祥丸